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知能・機能創成工学専攻「認知発達ロボティクスに関する研究」
人はどのようにして知能を獲得するのか? 乳幼児の発達をロボットで再現して理解する 知能・機能創成工学専攻 長井志江 特任准教授

乳幼児は困っている人を助けようとする?

こんなシーンをイメージしてほしい。部屋の中にいるのは歩き始めたばかりの乳幼児と大人。大人は棚に本をしまおうとしているが、両手に本を抱えているので棚の扉を開けられずに困っている。乳幼児は座ってその様子を見ている。ここで問題だ。乳幼児は次にどういう行動をするだろう。

答は、棚まで歩いて行って扉を開ける、だ。これは発達心理学で「利他的行動」と呼ばれる行為で、乳幼児は褒められるわけでも、ご褒美をもらえるわけでも、ましてや助けてとお願いされているわけでもないのに人を助けようとする、そういう行動に長けていると考えられてきた。

ここに、果たして本当だろうか?と疑問を呈し、新しい仮説を提示しているのが長井志江特任准教授。子どものように発達するロボットをつくることで、人の認知発達のメカニズムやプロセスを理解しようという「認知発達ロボティクス」に取り組む研究者だ。

ロボット研究にはハードに軸足を置いた研究とソフトに軸足を置いた研究がある。乳幼児の発達メカニズム解明は、汎用ロボットを使い、自分たちの理論を反映したプログラミングを組み込んで検証する。

自己と他者を区別するのは「予測性」

長井特任准教授の仮説はこうだ。まず前提として「自他認知」に対する仮説がある。人はどうやって自己と他者を区別し、その機能をいつ獲得するのだろうという問題へのアプローチだ。キーワードは「予測性」だという。人は脳から運動指令を送って体を動かす。肘を曲げる、肘を伸ばす。当然、運動が起こる確率は100%だ。対して他者には運動指令を送ることができない。何らかのアクションを起こせば反応があるかもしれないが、どう反応するかはわからない。つまり、自己は予測性が高い存在で、他者は予測性が低い存在と定義することができる。

そして、乳幼児はその境界がまだあいまいな状態にあり、自分の体の動きすら把握できていない。そう考えると、赤ちゃんが自分の手や足を口に入れるのは、自分の体を自分で経験するためで、自分がある動きをしたときにどういう感覚が結果として得られるのか、動きと感覚の「対応付け」を行っていると言える。そういった経験を重ねる過程で、自分で動かせるものを自己として、自分で動かせないものを他者として区別できるようになるというわけだ。

実は人を助けているように見えるだけではないか

「利他的行動」にもこの「自他認知」が影響しており、自己と他者がまだ区別されていない状況がこの行動を説明する鍵だと言う。

「つまり、人がやっていることを見ても、乳幼児は人がやっていると思わず、自分がやっていることのように誤認識しているのではないか。だから、予測通りにいかなかったら、それが誰の行動であるかに関わらず、予測通りになるように自分で行動してしまう。結果的に第三者から見ると、人を助けているかのように見えるだけで、我々が利他的行動と呼んでいるものの原点は、実は予測通りにことが進んでほしいという自己満足の欲求ではないのかというのが私の仮説です」。

仮説を仮説のままで終わらせず、ロボットで検証するのが認知発達ロボティクスの真骨頂。上記2つの仮説も論理に齟齬や矛盾のないことがすでにロボットで検証されている。利他的行動については、ロボットが学習を通して他者の運動と自己の持っている運動レパートリーとを対応させ、そこに隔たりがあった場合はその誤差を修正する運動を自ら生成するようにプログラミングされている。

実はこの仮説、感情を持たないロボットでも、人間の行動に追随する簡単なプログラムを入れるだけで、人はあたかもロボットに社会性があるように勘違いしてしまうことに発想のヒントがあった。「発達の原点は、もしかしたらすごくシンプルなものかもしれません。ロボットをつくるという工学的なアプローチだからこそ、その根っこにあるものが見えてくるかもしれない。そこがこの研究のおもしろさですね」。

このロボットは欧州の複数の大学がプロジェクトで開発したもの。世界中の大学や研究機関が共通のロボットを使用することでソフトウエアのオープンソース化が図れる。

発達障害の理解も認知発達の解明につながる

認知発達を解明しようとするとき、その前提には定型発達、つまり健常者の発達がある。しかし長井特任准教授は言う。「プログラムのパラメーターを1個変えただけで、ロボットは学習がうまくできなくなってしまいます。実はこの状況が、自閉症など発達障害を持つ人の行動に似ている部分があることがわかったのです」。だったら発達障害を理解することも認知発達の解明につながるはずだと、自閉症の人の知覚世界の再現にも取り組んでいる。

「これまで、自閉症は"社会性の障害"と説明されてきましたが、近年、その原因が社会性以前の"感覚・運動情報のまとめあげの困難さ"にあることが指摘されています。

自閉症の人の知覚世界を疑似体験できる「ヘッドマウントディスプレイ型知覚体験シミュレータ」を開発。

見ている世界が定型発達者と違っていて、人の表情を読むための情報も得られないため、コミュニケーションも難しいというわけです。そこで役立つのが私たちが持つロボット技術。知覚世界を再現することが可能で、定型発達者に疑似体験してもらえば、自閉症の人が本当に必要とする支援の仕方もわかってくるはずです」。

どのような環境・状況でどのように見えるか、聞こえるかを膨大なインタビューを通してデータベース化し、それを基にヘッドマウントディスプレイ型知覚体験シミュレータを開発。すでに自閉症の人の保護者など多くの方に体験していただき、大きな反響を呼んでいる。さらに、知覚パターンと脳科学的・生理学的な知見を照合することで、その機序も推定されてきたというから社会への貢献度も大きい。

ロボット研究は総合分野

最後に長井特任准教授にロボット研究の魅力を聞いてみた。

「ロボットは総合分野です。私たちがやっている、"人間を理解する"研究について言えば、エンジニア的な技術ももちろん必要ですが、人間科学分野でやられている発達心理学や認知心理学の研究、脳の中でどういう処理が行われているか脳科学の分野の研究というのも同時にみていかないと、ロボットが動くためのプログラムを組むことはできません。逆に言えば、ロボットをつくることで、人の感覚入力から運動出力まで全部を総合的に通して考えていくことができるわけです。それを医療や介護などの社会貢献に結びつけることも可能だし、産業の発展や宇宙開発にもつなげられます。いろいろな分野の根本となるアイデアや技術が習得できる、それがロボット研究の魅力ですね。そして大阪大学は世界的なロボット研究のメッカ。優秀な研究者が集まっているのでとても刺激的です」。

長井特任准教授がリーダーを務める研究グループは、日本人の学生が1人だけで欧米やアジアからの留学生が集まっている。

長井志江 特任准教授 知能・機能創成工学専攻

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