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生命先端工学専攻 「バイオ医薬品生産に向けたプロダクションサイエンス」
画期的な薬を多くの患者に届けられるように 動物細胞を用いた医薬品生産プロセスを研究 生命先端工学専攻 大政 健史 教授

ノーベル賞に輝いた研究が「抗体医薬」に

がんや自己免疫疾患といった難病の新たな治療薬として「抗体医薬」が次々に登場し、注目されている。抗体医薬は、人間が感染や病気から自らを守る「免疫」機能に注目し、その機能を果たす「抗体」をバイオテクノロジーによってつくりだしたバイオ医薬品だ。生体内で特定のがん細胞などの異常な細胞や病原体、抗原等を識別して排除することができるため、副作用の少ない効果的な治療薬として期待されている。

2018年ノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑京都大特別教授の功績がまさにそれで、免疫を抑制するタンパク質の発見が抗体医薬の開発につながり、画期的な免疫療法が可能になった。

世界の医薬品売上高ランキング上位10位までの製品と売上高の推移を見ると、抗体医薬は2005年に初めてトップ10に入って以来増え続け、今ではその6〜7割を抗体医薬が占めるまでになっている。市場規模は、10年前に比べて2倍超の18兆円にも達しており、まさにバイオ医薬品は世界の医薬品産業の“成長エンジン”といっていいだろう。


分裂を繰り返す細胞株として樹立されたCHO細胞。大きさは10〜30マイクロメートル。

薬は一品モノでは意味がない

大政教授は、この抗体医薬の「生産」に関する幅広い研究を行っている。「薬をつくる」と聞くと、薬そのものをつくりだす「創薬」をイメージし、医学や薬学の領域ではないかと思うかもしれない。しかし、薬は一品モノでは意味がない。高品質の医薬品を安定的に「生産」できてこそ多くの患者さんに届けることができるのであり、医薬品産業がビジネスとして継続できるのだ。大政教授は「生物化学工学」×「動物細胞」をテーマに、動物細胞の産業応用に関する研究に長年取り組んできた。モチベーションの源泉は「世の中の産業に役立つプロセスをつくりたい」という思いだ。

「生命先端工学専攻のルーツは大阪工業学校(大阪大学工学部の前身)醸造科で、そもそもの始まりは、お酒づくりで困っていることを解決できるような学科をつくってほしいという灘の醸造業界からの要望でした。つまり、新しいサイエンス、新しいエンジニアリングで産業に役立つ生産プロセスを研究するという流れを私もしっかり受け継いでいるわけです」

抗体医薬はまるでビジネスジェット

抗体医薬の主体となる抗体タンパク質はどのように生産するのか。従来の低分子医薬品であれば化学合成できたが、抗体タンパク質は巨大かつ複雑な分子だ。低分子医薬品の分子量が最大500〜600であるのに対し、抗体タンパク質は15万〜16万もあり、化学合成は不可能だ。インスリンのように微生物に遺伝子を組み込んで生産する方法もあるが、抗体タンパク質はその複雑な構造や糖鎖などの翻訳後修飾のため、大腸菌などの原核生物や、下等真核生物では合成できない。 「低分子の薬が自転車だとすると大腸菌でつくった薬は自動車で、抗体医薬はビジネスジェットに匹敵します。膨大な部品を精緻に組み上げるには、非常に高度な合成が可能な我々と同じ高等真核生物の細胞でなくてはなりません」 よく用いられるのがチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。分裂を繰り返す細胞株として樹立した動物細胞で、現在治療に使われている抗体医薬の大部分もCHO細胞で生産されている。大政教授は世界に先駆けてこのCHO細胞による有用物質の生産に取り組んできたことから、格段の知見を有している。

培養という現象を科学的な視点で解明

CHO細胞に遺伝子を組み込んで抗体タンパク質を生産するには、大きく分けて2つのアプローチがある。1つは培養系である。どうすればCHO細胞を安定して増やせるのか、スケールを上げるにはどのような条件を整えなければならないのか、培養条件、スケールアップ条件を詳細に検討し、最適解を見出さなくてはならない。

「しかし、培養という現象をブレークダウンしていくと実はまったくわかってないこともたくさんあるのです。組み込んだ遺伝子の設計図がいつ読み取られ、膨大なステップの反応がどのように連鎖するのか、その過程でどのような物質がどれくらい合成されるのか、目的のタンパク質はいつ合成され、それはいつ細胞の外に出てくるのか、出てきたタンパク質は安定なのか不安定なのか。それらは細胞の分裂とどう関係し、細胞が増えるとどうなるのか。科学的な基盤に基づいた解明と応用が必要なのです」


細胞の培養は培養条件を設定できる培養装置の中で行われる。
赤い培養液の中にCHO細胞が入っており、この中で抗体タンパク質が生産されている。

抗体医薬はすでにいくつも発売され、細胞培養を用いた生産技術も実用化はされているが、試行錯誤的な条件設定も多く、「完成された技術だというのは全くの誤解だ」と大政教授は力を込める。

細胞を再設計して自在にものをつくりだす

もう1つのアプローチは細胞の構築だ。遺伝子組換えによってCHO細胞の設計図を書き換え、抗体タンパク質の生産機能を強化した細胞株を構築するべく研究が進められている。遺伝子増幅という手法を使って抗体タンパク質遺伝子を多数組み込んだCHO細胞がすでに実用化されているが、より早く増殖する細胞や環境の変化に強い細胞など優れた特性を持ったCHO細胞が実現できれば生産プロセス全体が大きく進展する。

「動物細胞の中では代謝といわれる膨大な化学反応が起こっています。産生された物質が連鎖的な反応によって次々に変換されるなど、そこに時間軸という要素を加えれば代謝という現象は実に巧妙かつ複雑です。細胞は生物そのものであり、遺伝子を組換えるということは生命活動に関する根幹を設計し直すという、たいへんな作業です。まだまだ解明されていないことがあり、我々にできるのはほんの一部を変える程度ですが、それだけに細胞自身の改良には大きな余地があり、その可能性に挑戦しています」


遺伝子組換えで設計図が書き換えられた細胞の染色体上の位置を、緑色の蛍光色素で標識させている。

オールジャパンで純国産の生産技術を開発

抗体医薬に代表されるバイオ医薬品は医薬品産業の成長エンジンとなっており、バイオによるものづくりに伝統を持つ日本として大いにプレゼンスを発揮したい分野である。そこで我が国のバイオ医薬品製造に関わる33企業、4団体、1国研、4大学が結集し、純国産による次世代の製造技術を開発しようとプロジェクトが日本医療研究開発機構の採択を受けて推進されている。大政教授はその統括プロジェクトリーダーを務める。

「製薬のみならず、化学、電気、機械など、バイオ医薬品製造に関わる様々な企業が参加しています。日本には優れた技術が多くあり、製造プロセスの上流から下流までを網羅しています。これだけ多彩なメンバーが集まったプロジェクトは世界的にも例がありません」

抗体医薬生産のプラットフォーム開発に続き、2018年度からは新たなテーマとして、鉄鋼や自動車のように連続して生産するための要素技術の開発にも着手する構想だ。

生物を使ったものづくりの面白さが魅力

最後に「生物化学工学」の魅力を聞いた。

「医学・薬学の研究者は薬そのものに関心があると思いますが、我々はたくさんの方に高品質の薬をいつでも供給できるようにすることに関心があり、それが重要だと認識しています。それができるのが工学であり、生物を使ったバイオのものづくりの面白さが体験できるのが生物化学工学です。抗体医薬は今非常に伸びている分野ですが、バイオ医薬品には遺伝子治療やワクチンなども含まれ、新たな生産プロセスは開発途上国でも期待されています。我々の研究室では様々な国の留学生が一緒に学び研究しており、アカデミックな国際交流ができるのも魅力です」


最先端のバイオテクノロジーで医薬品生産のプロセスを研究する大政研究室には世界各国から留学生が集まっている。

生命先端工学専攻 大政 健史 教授

〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1 / TEL.06-6877-5111(代)

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