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HOME > 研究 > 研究紹介 > 精密科学・応用物理学専攻|山村 和也 教授
精密科学・応用物理学専攻「プラズマナノ製造プロセスの研究・開発」
大気圧プラズマ技術をベースに、ナノメータ・サブナノメータオーダの超精密加工プロセスを研究 精密科学・応用物理学専攻 山村 和也 教授

実用化に結びつく研究で日本を代表する技術賞を受賞

2017年、山村教授は日本の代表的な技術賞のひとつである「井上春成賞」を、共同開発を行った京セラ株式会社と共に受賞した。この賞は、大学や研究機関等の独創的な研究成果をもとに、企業が開発し、事業化した技術を対象としており、日本の科学技術の進展や経済発展に寄与したものの中から、特に優れた技術に贈られる。「実用化に結びつく工学研究」をモットーとする山村教授の、まさに面目躍如といったところである。

評価されたのは「プラズマCVM技術を応用した超小型水晶振動子の開発」だ。製造プロセスの革新によって超高精度の水晶ウエハの製造が可能となり、限界とされていた水晶素子のさらなる小型化と量産化を同時に達成。その水晶素子を収容した世界最小サイズの超小型水晶振動子が誕生した。世の中に安定的に供給できるようになり、すでに高機能化した現行のスマートフォンに搭載されるなど、IT機器の進化に欠かせない存在となっている。


2017年、山村教授は「プラズマCVM技術を応用した超小型水晶振動子の開発」で、日本の代表的な技術賞のひとつである「井上春成賞」を、京セラ株式会社と共に受賞した。

「究極の精度」を実現する、まったく新しい基盤加工技術を確立

山村教授の研究は、最先端のものづくりにどのようなの革新をもたらしたのか。その核となるプラズマCVM技術のどこが独創的なのか。その内容および意義を理解するには、そもそも山村教授が何をめざして研究・開発に取り組んできたのかを知る必要がある。それは、ひと言で言えば、「究極の精度」を実現できる、まったく新しい基盤加工技術の確立である。

加工とは、ある材料が、目的とする機能を有するように、設計した通りの形状、あるいは物性を有する表面を創成することだ。人工物で加工されていないものはない。有史以来、加工技術の進展が便利で快適な生活を支えてきたと言っても過言ではない。しかし、社会のIT化が進むに従って最先端分野の加工に求められる精度はけた外れに高くなっている。超高精度な光学素子の製造や高性能電子デバイス作製用の半導体基板の加工には、ナノメータ精度の形状と、サブナノメータ精度の表面粗さの実現が求められているのだ。


究極の加工精度をめざして大気圧プラズマをおよそ30年前から研究。世界的に見ても先駆けであった。

このような要求に対して、既存の切削や研削などの機械的な加工法で対応できるのか。答は、もはや限界と言わざるを得ない。機械的な加工法は、脆性破壊や塑性変形を加工現象として利用している。物質と物質が接触するため、必然的にダメージが生じ、形状に歪みが生じるのみならず、素材が本来有する優れた物理・化学的性質が損なわれてしまうのだ。ナノの世界では機械が発する振動やわずかな熱膨張も大きな障害となる。

今からおよそ30年も前、こうした事態の到来を予測していたかのように、新しい概念の革新的な加工技術の研究を始めた研究者がいた。それが山村教授の恩師にあたる森勇蔵 現名誉教授で、研究室に配属されたばかりだった山村教授も新しい加工法を生みだすことに夢中になった。

「究極の精度」を実現する、まったく新しい基盤加工技術を確立

その画期的な加工法こそ、大気圧プラズマを用いた加工法であり、それを形状創成を目的としたエッチングプロセスとして体系化したのがプラズマCVM(Chemical Vaporization Machining)なのだ。

「なぜプラズマなのか。着想の原点は、加工の現象を原子のレベルでとことんまで考え抜くことでした。究極の加工精度を達成するためには、削り取る、磨き取る領域をどこまでも薄くしていけばいい。その行き着く先は何かと言えば、原子1個1個を取ることです。しかし、機械的に無理やり原子を剥がすのは無理がある。だったら化学的に取ればいいけれど、液体に浸けて反応させるのは使い勝手が悪いし、環境にもやさしくない。何かないか。そこで、森先生が狙いをつけたのが大気圧プラズマでした」

今でこそ大気圧プラズマは、表面改質やドライ洗浄など様々な用途に実用化されているが、プラズマで加工するという発想自体、当時はなかった。ましてや当時のプラズマといえば、雷のような激しい現象か、あるいは逆に真空容器の中でぼんやり光る程度のものでしかなく、機械加工を代替できると考える者はいなかった。加工物の表面から局所的に原子を除去するには、反応性の高い低温のプラズマを線香花火のようにピンポイントで発生させなければならないし、加工に使える速度で反応させるには高い圧力が必要となる。つまり、大気圧でプラズマをコントロールするという、前代未聞の知見をゼロから見出さなくてはならなかった。


プラズマCVMでは、プラズマにより生成したラジカルの化学反応を利用。加工量をプラズマの滞在時間で制御するため、ナノメータレベルの形状精度が得られる。

「前例のない研究テーマですから、参考にする論文なんてありません。実験装置もすべて自分たちで考えて作りました。うまくいかないことの連続でしたが、世界で誰もやっていないことに挑戦しているんだと思うとワクワクしたし、小さな成功も感動的で、それがモチベーションになりました」

真っ平らな甲子園球場に髪の毛1本が落ちたくらいの精度を達成

大気圧プラズマを用いた加工プロセスであるプラズマCVMの原理はこうだ。まず、大気圧下で局所プラズマを発生。プラズマ中で生成された高密度の反応種(ラジカル)との純粋な化学反応によって被加工物表面の原子を気化。局所プラズマを数値制御走査することで形状を創成。大気圧下ではイオンの運動エネルギーは小さいため、イオン衝撃による表面損傷もほとんどなく、結晶学的観点からも極めて優れた加工表面の創成が期待できる。

これを水晶振動子の製造工程に応用したことが、冒頭の井上春成賞の受賞につながった。従来、水晶素子は水晶のウエハから個片を切り出してから厚さの計測と湿式エッチングによる厚さ調整を繰り返す方式で作られていたが、プラズマCVM技術により、水晶ウエハの状態で一度に多数の振動子を作製することが可能となり、半導体フォトリソプロセスが適用できるようになった。


24ミリ×24ミリの水晶ウエハをプラズマCVMで修正加工すると、厚さムラは15ナノメーターの範囲に収まる。甲子園のグラウンドに例えると厚さムラは髪の毛1本程度になる。

技術的に課題だったのは、水晶素子の厚さが発振周波数を決めるため、厚さにばらつきのない水晶ウエハを加工しなければならないこと。では、プラズマCVMでどれだけの精度が達成できたのか。数値で表すと24ミリ角の面積で厚さのムラが15ナノメータに収まるほどだという。わかりやすく水晶ウエハを甲子園球場に例えると、グラウンドの凸凹が髪の毛1本程度だということだから、驚くべき精度である。

3つの「F」で「プラズマナノ製造プロセス」を研究

大気圧プラズマを用いた表面創成プロセスを、山村教授は「プラズマナノ製造プロセス」と命名し、さらなる高精度化、高機能化をめざして3つの「F」から研究を進めている。1つ目のFは、Figuring(形状創成)で、上記で紹介したプラズマCVM。

2つ目は、Finishing(表面仕上げ)で、「プラズマ援用研磨」と呼ばれる加工プロセスだ。加工の難しい硬い材料の表面を極限まで滑らかにする山村教授オリジンの新しい加工技術である。

「パワー半導体の基板材料となるSiCは、ダイヤモンドに次ぐ硬さのため、表面を研磨しようと思えばダイヤモンドの砥粒で磨くしかありません。当然、ゴリゴリ削るのでキズだらけになり、いろいろな支障が出てきます。そこで思いついたのです。大気圧プラズマを使って酸素と反応させれば、表面を柔らかいガラス(SiO2)にできる。柔らなくなった層だけ、SiCより柔らかな砥粒でやさしくなでてやれば、キズのない滑らかな表面ができるのではないか」

硬いものを柔らかいもので磨く。プラズマを長年研究していたからこその逆転の発想だった。はたして実験をして電子顕微鏡で観察すると、狙い通り、原子がきれいに並んだ美しい表面が観察できた。さらに、物質中で最も硬いダイヤモンドもこの方法で加工できることがわかり、高硬度材料の高能率かつダメージフリーな表面仕上げ方法として、実用化に向けた企業との共同研究が、現在、精力的に進められてるところだ。

3つ目は、Functionalization(表面機能化)で、「熱アシスト大気圧プラズマ処理」。通常は難しいフッ素樹脂と他の材料の接着を、プラズマ照射と表面加熱を同時に行うことで可能にした。フッ素樹脂は電気的な吸収損失がほとんどないという性質があるため、銀や銅の回線を強固に接着できれば、ミリ波レーダーなど高周波を使うデバイスに最適の材料となる。


プラズマ援用研磨は、硬くて脆い材料の表面をプラズマ照射により軟化改質し、改質層を軟質砥粒で除去する。プラズマ援用研磨を行ったSiC表面の原子間力顕微鏡写真。表面にはステップテラス構造が見られており無欠陥の完全表面であることが確認できる。



フッ素樹脂(PTFE)の表面を熱アシストプラズマ処理することにより、接着剤を用いることなくブチルゴムが材料破壊するほどの強力接着を実現。



フッ素樹脂に塗布した銀インクも剥がれなくなり、フッ素樹脂を用いたフレキシブルなプリント基板も実現可能に。


ナノ、サブナノという究極の精度を工業的に有用な能率で得ることを可能にする技術を、サイエンスに基づいた思考により実現することを理念とする「プラズマナノ製造プロセス」。加工プロセスそのものが注目されることは少ないが、最先端分野のものづくりを支える重要な技術である。「理想の形を求めて、妥協することなく、とにかく究極を追い求めたい」という研究者の情熱が常識を打ち破り、不可能を可能にしているのだ。

精密科学・応用物理学専攻 山村 和也 教授

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