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精密科学・応用物理学専攻「表面科学を駆使した超精密加工法、表面創成法を開発」
原子を操ることで、原子スケール、ナノスケールの新しい超精密加工法を創出 精密科学・応用物理学専攻 山内和人 教授

X線自由電子レーザー施設SACLAが拓く世界

私たちの体を構成する細胞は細胞膜に覆われていて、自己と非自己を区別して非自己を排除する免疫機能を有している。その機能を支えているのが膜タンパクであり、この膜タンパクをそのままの状態で観察できれば、病気の原因解明や薬の開発に新しい道が開ける。しかし、これまでの科学技術でこれを実現することは不可能だった。見ている間に壊れてしまう。そこで誕生したのが、大型放射光施設SPring-8に併設されたX線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAだ。XFELは、物質への透過性が高いX線領域の波長を持つ非常に強力なレーザー。フェムトセカンド(1兆分の1秒)単位のイメージングにより、壊れる前にタンパク質を構成する分子の3次元構造が観察可能になると期待されている。

大型放射光施設SPring-8に併設されたX線自由電子レーザー施設SACLA(写真左の直線上の建物)。タンパク質を生体内そのままの状態で観察することが可能になると期待されている。

X線をビームにする集光鏡の精度は原子単位

ただし、超高分解能を実現するには、XFELを極限まで集めて超高強度な集光ビームにしなければならない。そこで注目してほしいのが、山内研究室が創りだした原子レベルの精度を持つX線集光鏡。XFELを2回の全面反射により1点に集める仕組みで、鏡の形状が非球面になっているのが特徴だ。難しいのは、単に光を焦点に向けるだけでなく、すべての光の位相を焦点で合わせて強め合い干渉の状態にしなければならないということ。X線の波長は原子の大きさより短いため、反射面も原子レベルの滑らかさが要求される。集光鏡のサイズは長辺で50センチにもわたる大面積であるが、反射面に許される表面のざらつきは、山と谷の差にしてわずか0.5ナノメートル。原子が並ぶ結晶の表面を1層ずつ剥ぎ取っていくという神業のような加工精度で、深さ15マイクロメートルのなだらかな非球面を仕上げなければならない。

山内研究室のメンバー。原子の気持ちになって、どんな物理・化学現象が利用できるかを常に考えている。
原子の気持ちになって原子が飛び出す環境をつくる

そのX線集光鏡を可能にしたのが原子スケールの超精密加工法、表面創成法の研究に取り組む山内研究室。山内教授は、原子レベルの精度を達成しようとすると、「原子の気持ちになって、原子が自ら飛び出す環境をつくってあげなくてはならない」と言う。

「人類はモノづくりにおいて加工精度を追求してきましたが、削ったり磨いたりして形をつくる原理は石器時代から変わりません。しかし、原子スケール、ナノスケールで加工しようとすると、加工物の形を力づくで強引に変える方法では表面をキズだらけにしてしまいます。せっかく原子がきれいに並んでいる結晶構造が崩れてしまい、本来の機能を発揮できなくなります。当研究室が取り組む超精密加工に応用するのは、様々な物理・化学現象です。安定して結びついている原子も、少し状況を変えてあげれば、ダメージを伴うことなく勝手に離れてくれるのです。そういう場づくり、状況づくりをしようというのが当研究室の基本姿勢で、だからこそ原子の気持ちになって、どんな物理・化学現象が利用できるかを考えることが大切なのです」。

大気圧プラズマで非球面形状を加工

X線集光鏡をつくるには2つのプロセスが必要だ。1つは非球面形状をつくるプロセス。もう1つが原子レベルでの平滑な表面仕上げである。

非球面形状をつくるのは、大気圧プラズマを利用した『プラズマCVM(Chemical Vaporization Machining)』という超精密加工法。大気圧プラズマは、1気圧という他に類を見ない高圧力雰囲気下で高密度のプラズマを発生させる方法で、これも山内研究室が発明したものだ。大気圧でプラズマを発生させることで大量のラジカル(電気的に中性な不対電子をもつ原子、分子あるいはイオンで活性種とも言われる)が生成される。そのラジカルを加工物表面の原子に作用させると原子は揮発性の物質に変わって飛んでいくという仕組みだ。プラズマの滞在時間を制御することで機械加工では難しい非球面形状も簡単につくることができる。ケミカルエッチングなので原子配列も乱れない。

原子層を剥ぎ取って表面を平滑に加工

そして、表面を仕上げるのは『EEM(Elastic Emission Mechanism)』という、固体表面間の界面反応を利用したまったく新しい加工プロセスだ。工程は至ってシンプル。加工物表面との反応性を持った微粒子を超純水の流れを利用して加工したい箇所にノズルから送り出す。たったこれだけだが、難しい非球面形状も簡単につくることができる。走査型トンネル顕微鏡で加工面を拡大し、わかりやすいように原子層ごとに色分けして観察すると、完全に目標の高さになった原子層が全体の48%、1層高い原子層が16%、1層低い原子層が31%で、合わせると95%が目標の高さ±1層でコントロールされていることが確認できた。原子3個はおよそ0.5ナノメートル。これでX線集光鏡が現実のものとなったのだ。大阪大学が創りだしたこの集光鏡には『OSAKA MIRROR』と名付けられ、これを組み込んだSACLAでは、50ナノメートルという世界最小の集光サイズをもつXFELシステムが完成した。

半導体基板を触媒反応で磨く量産加工法も開発

『EEM』は究極の一品料理のための加工法だが、山内研究室では量産対応が可能な加工法も研究している。それが『Water-CARE (CAtalyst-Referred Etching)』だ。量産対応といっても加工するのは電子デバイスの材料となるSiCやGaNなどの半導体基板だから、やはり表面精度はナノスケール。現在、基板は微粉末をつけたパッドで機械的に研磨されているが、『Water-CARE』は白金触媒と水による化学反応を利用して加工物表面の凸部から除去していく仕組みだ。クリーンルームとの相性もよく、現在の研磨装置のパッドを触媒付パットに交換するだけで直ちに『Water-CARE』化できる点も画期的だ。加工表面を拡大すると結晶の段差がきれいに揃ったステップテラス構造が観察でき、汎用的ながら1原子レベルで加工されていることがわかる。

このように、物理や化学を使って加工という工学の常識を覆している山内研究室。「創れなかったものを創る」を合言葉に原子スケールでの熱い挑戦を続けている。

大気圧プラズマを利用した超精密加工法で、機械加工では難しい非球面形状を加工する。/微粒子と加工物の表面に起こる化学反応を利用するEEMの仕組み。原子1個を剥ぎ取っている。/EEMで仕上げた表面を走査型トンネル顕微鏡で観察。原子層ごとに色分けすると、全体の95%が原子層1層の誤差で加工されていることがわかる。/X線自由電子レーザーの集光サイズで45ナノメートルを達成して世界を驚かせ、今は、10ナノメートル以下の集光サイズ実現に挑戦している。/Water-CAREで表面を加工した窒化ガリウム(GaN)の表面。結晶の段差がきれいに揃ったステップテラス構造が観察できる。

山内 和人 教授 精密科学・応用物理学専攻

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