ここは世界最高性能のクリーンルーム技術が導入されている超精密科学研究センターです。みなさんには埃の出ない特殊な服を着てもらい、エアーシャワー室で埃を吹き飛ばしてからクリーンルームに入ってもらいます。一般のクリーンルームは1立方フィート当たり浮遊する粒子が10万個以下でいいのですが、ここはなんと1個以下。半導体の工場よりも高清浄な空間なんですよ。

これは集束イオンビームを利用してマイクロ・ナノレベルの精密加工や観察ができる装置です。左にある電子顕微鏡のような部分が試料を入れて実際に加工を行う装置で、観察と加工の操作は右のコントロールユニットで行います。集束イオンビームとは、イオンを電磁気力によってビーム状に絞ったもので、このビームによって材料の表面の原子をはじきとばして削っていく仕組みです。

この装置は操作に慣れればこんな複雑な加工もできるんですが、今日はみなさんに世界最小のネームプレートをつくってもらいます。プレートのサイズは縦横が20ミクロン×20ミクロンほど。髪の毛の太さが約0.1ミリで100ミクロンですから余裕で乗りますね(笑)。ちなみにこの装置で髪の毛を見ると大きな杭のように見えるんですよ。

すでに装置の中にはシリコンのプレートが人数分入っています。まず最初に文字をどこに入れるか範囲設定して位置決めしてもらいます。そして次に、マウスを操作しながらネームプレートに入れる名前を1文字ずつディスプレイ上に描いていきます。お絵描きソフトの要領ですね。今見ているのは見本でつくった世界最小のウエルカムボードです(笑)。

気軽に触ってもらっていますが、実はこの装置はウン千万円もする高価なものなんですよ。でも、こういう装置を自由に使って実験ができるからこそ世界をリードできる研究成果が得られるんです。あ、だからといってそんなに緊張しなくてもいいですよ。簡単に壊れたりしませんから(笑)。

なかなかカッコイイ文字ですね。文字の大きさや配列も変えられるので最後に調整してください。さて、できましたか。では、いよいよ加工していきましょう。といっても加工は数十秒で終わってしまうんですけどね。ではスタート。ほら、色が変わって表面が削られていくのがわかるでしょう。あまりに早いので面で削っているように見えますが、微細な線で削っているんですよ。

みなさんの加工が終わりました。ではシリコンプレートを取り出しますよ。装置の中は真空になっているので、取りだすのにも手順があるんですよ。さあ、どうなっているかな。ワクワクしますね。

はい。これが世界最小のネームプレートです。どうですか。え、何も見えないって? それはそうです。最初に言ったように、サイズは細胞レベル。肉眼で見ることはできません。光にかざせば小さなキズのようなものが見えるかもしれませんが、ちゃんと確認するなら性能のいいルーペや顕微鏡で見てください。それは帰ってからのお楽しみです。

ネームプレートはちゃんとケースに入れて進呈します。半導体の材料になるシリコンの単結晶のプレートもなかなか貴重だと思いますよ。みなさんには、後日、加工後のネームプレートを拡大した画像をプリントアウトして送ります。それには名前の横にスケールバーもついていますから大きさがわかります。楽しみにしておいてください。

どうでしたか。ミクロン・ナノの世界に触れた感想は。ディスプレイでははっきり、大きく見えていたのに、実物では小さすぎて人の目には見えない世界。そこは人類が足を踏み入れたばかりの不思議さにあふれた世界です。今日の体験教室は、その未知の世界の入口でしたが、ナノテクノロジーのすごさを少しは感じてもらえたのではないでしょうか。