当研究室ではいろいろな機能をもつ有機分子を新しく作り出す研究をしています。なかでも、環境保全や資源・エネルギーの有効利用に役立つような高分子の創成を目指しています。今回は有機分子を集合させて、「分子カプセル」をつくる実験を行います。分子カプセルとは、その名の通り非常に小さなカプセルで、中に物質を取り込ませることができます。特定の条件でカプセルを壊せるので、薬品や化粧品などに使われています。

分子カプセルは「ベシクル」と呼ばれます。これは生物の細胞膜を構成するリン脂質が球状に集まったもの。リン脂質には水になじみやすい部分と油になじみやすい部分があり、これらが特定の条件下で層を形成するように並び、ベシクルを作り上げます。ベシクルの大きさは50nm~10μmで、写真のように光学顕微鏡で観察することができます。今回はリン脂質と蛍光色素を溶かした液を作り、超音波処理を行うところから始めます。

超音波処理を行うと、膜状だったリン脂質がベシクルを形成します。その際、内部に蛍光色素を取り込みます。取り込まれた蛍光色素は濃度が濃く、オレンジ色~濃黄色に見えます。本当にベシクルが形成され、蛍光色素が取り込まれたかを探るために「ゲルろ過」を行いましょう。最初に作った液を網目構造のゲル粒子入った筒に通すと、小さな蛍光色素はゲル粒子の網目に入ります。これを利用することで、写真のようにベシクルだけを分離できるのです。

溶液の色が変化しますね。大きな分子のベシクルはゲルの網目に入らず、ゲル粒子を素通りして落ちていきます。その結果、濃い色をしたベシクル分散液だけを、分離することができるのです。これで蛍光色素を取り込んだベシクルだけを取りだすことができました。ただ、肉眼では本当にベシクルが形成されたかわかりません。電子顕微鏡などを使用すれば観察できますが、今回は見た目でわかる方法をやってみることにしましょう。

取りだした分散液をふたつに分け、ひとつに界面活性剤を加えます。界面活性剤は洗剤のことです。洗剤によりベシクルからリン脂質分子が抜き取られてベシクルが壊れます。結果、中に含まれていた蛍光色素が分散し、光を吸収して蛍光色に変わります。写真では片方だけ蛍光色が出て、ベシクルができていたことが分かります。実験は成功ですね。

次は「人工イクラ」をつくりましょう。これも分子の集合体を作る実験です。おもに使う材料は、アルギン酸ナトリウムと塩化カルシウム、水です。アルギン酸は、昆布だしに含まれる成分。実際、安価な人工イクラは同じ方法で製造されています。今回はわかりやすくするため、食紅で色をつけます。アルギン酸ナトリウムを溶かした溶液の味を調えれば、この実験でも食用に耐えうる人工イクラをつくることができますよ。

手順としては、水にアルギン酸ナトリウムを溶かし、食紅で色をつけます。別の容器に塩化カルシウムを溶かしておきます。塩化カルシウム水溶液に、アルギン酸ナトリウムの水溶液をスポイトで垂らすと、丸い粒がすぐに形成されます。これはアルギン酸ナトリウムがカルシウムイオンと触れると、瞬時に界面膜をつくるという性質があるからです。水に触れた瞬間、丸くなりぽこぽこ落ちていく人工イクラを観察しましょう。

水溶液が触れあい、アルギン酸カルシウムのゲルがつくられます。このゲルは、卵を入れる容器に似ているため「エッグボックスジャンクション」とも呼ばれる構造をとっています。この人工イクラを、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(EDTA)を溶かした溶液に入れてみると、ゲルの内部にあるカルシウムイオンがよりEDTAとくっつきやすい性質を持っているため、人工イクラが崩壊していく様子を見ることができます。

作った人工イクラを、塩化カルシウム水溶液から取りだしてみます。できてから水溶液に浸かっていた時間を、少しずつ変えてみましょう。取りだして触ってみると、浸かっていた時間によって固さがちがうのがわかるはずです。人工イクラは塩化カルシウム水溶液の中にある時間が長ければ長いほど、反応が進み膜が固くなっていくのです。今回の実験と同様の考え方を応用して、さまざまな高分子製品がつくられています。

高分子化合物は、実は誕生してからまだ60年ほどしか経っていません。しかし、すでに私たちの生活に必要不可欠な存在になりました。今後、私たちのくらしをより豊かにする存在でもあります。たとえば人工臓器やナノマシン、土中や体内で無害な物質に分解するグリーン高分子などは、大きな注目を集めています。日本はこの分野の研究・開発でトップレベルを走っています。ぜひ興味を持った方は、その研究に挑戦して欲しいですね。