みなさん、溶接を間近で見たことがありますか。溶接にもいくつかの方法があるのですが、今日はアーク放電現象を利用したアーク溶接でこの2枚の金属片を接合する様子を“特等席”でご覧いただきます。東京スカイツリーなどの建造物、船舶、ロケット、化学プラントや発電所などの接合加工にもアーク溶接はたくさん使われていて、経済発展や国民生活の向上になくてはならない「モノづくり基盤技術」です。

ここにあるのは実験装置ですが、原理は実際の工場で使われているアーク溶接の機材と同じです。ここに2枚の金属片の接合面を合わせてセットします。この装置には電源がつながっていて、下の金属片がプラス電極に、上の金属棒がマイナス電極になります。金属棒の材質はタングステンで電子が安定して放出されるように先端が尖っています。また溶接部が空気に触れて酸化しないようにアルゴンガスを吹き付けるようになっていて、これをTIG(Tungsten Inert Gas)溶接と言います。

始める前に、アーク放電とプラズマの説明を簡単にしておきましょう。電源につながれたプラスの金属片とマイナスの金属棒の間にはギャップ(隙間)があって絶縁状態ですが、ここに大きなエネルギーを加えるとギャップ間のアルゴンガスが電離して物質の第4の状態、プラズマになります。プラズマは電離した気体ですので、その中を電流が流れることができます。これがアーク放電です。アーク放電のプラズマは、金属を溶かすほどの高温と直視できないほど眩しい閃光を発します。さあ、みなさん遮光面をつけてください。いきますよ。

すごい光だったでしょう。アーク溶接中のプラズマの中心部は15000℃から20000℃もの高温に達します。太陽の表面温度は約6000℃ですので、どれくらい高温かがおわかりいただけるでしょう。とにかくすごいエネルギーが発生しているわけです。金属片の溶接部はその融点(鉄の場合約1500℃)を超え2000℃に達します。なのでこの金属片は今ものすごく熱くなっています。水で冷却するのでちょっと待ってください。

溶接された金属片を渡すので、順番に見てください。さて、この間にみなさんに質問です。プラズマはみなさんの身の回りにもたくさんあります。わかりますか。雷、太陽、オーロラは自然界のプラズマですね。蛍光灯や自動車のキセノンライトなどの照明もプラズマを利用しています。実は、電気による最初の照明は炭素棒間のアーク放電でした。その後,このエネルギーを使って金属を溶かし,接合することに用い始めたのが溶接の始まりです。

みなさん金属片がしっかり接合されているか確認しましたか。試しに力一杯曲げたりして外してみてください。絶対に外れないと思いますが(笑)。アーク放電やプラズマのすごさが少しは実感できたでしょうか。実は太陽を含む恒星はプラズマの塊ですし、星と星の間の空間もプラズマだらけで、宇宙全体で見ると99%以上がプラズマと言われています。僕らのようにプラズマにならず、これほど安定して存在していることの方が宇宙では奇跡と言えるのかもしれませんね。

もう一つ実験を見てもらいたいと思います。このドライバーの先には小さいけれども強力な磁石が付いています。方位磁針を近づけるとS極に反応するこのN極側を、光っている最中のアークに近づける実験です。さて、どうなると思いますか。

上がマイナスの電極、下がプラスの電極で、プラズマの中を電流はプラスからマイナスに向かって流れています。そこに磁石のN極を近づける。さあ、みなさん勉強したことを思い出してください。そう。フレミングの左手の法則です。溶接アークは電流の塊なので、磁石の影響を受けて曲がります。電磁力の問題ですよ。どっちに曲がるか、みなさん予想できましたか。

遮光マスクをつけてしっかり観察してください。「おー!」という声が一斉に上がりましたね。自分で考えた予想と実験の結果は合っていましたか。なぜこの実験を行ったかというと、実際にモノづくりの現場で問題が起こる場合があるからです。アークが被溶接材の端に近づくと、電流経路によって磁場が生まれ、その磁場によってアークが振れてうまく溶接できないことがあります。「磁気吹き」という現象です。逆に、あえて磁場をかけてアークを制御する方法もあります。溶接って奥が深いでしょう。

今日はTIG溶接でしたが、他にはMIG溶接やMAG溶接があります。違いは金属棒がワイヤになっている点で、溶ける消耗電極が連続的に押し出される仕組みになっています。今パソコンに出しているのは、ワイヤが溶けながら落ちている様子を毎秒5000コマの高速度カメラで撮影した映像です。ワイヤの径は1.2mmですから、いかに小さい範囲の現象かわかるでしょう。しかし、ここには固体、液体、気体があって、さらに電離気体であるプラズマもあります。アーク溶接というのは、実は非常に複雑な現象で、よくわかっていないことがまだまだあります。