今日、みなさんに体験してもらう研究は本格的です。実際に「太陽電池」を作製し、発電していただきます。太陽電池は、「半導体」を利用して光のエネルギーを電気的なエネルギーに変換するデバイスです。材料にゴミが入ると性能が低下するので、実験の多くをクリーンルームで行います。みなさんに着てもらったのも専用の防塵衣です。最初に、材料となる単結晶シリコンの丸いウエハを「劈開」という性質を利用して、所定の四角い基板に割ってもらいます。劈開を利用すると、小さなキズを付けるだけでパキンと綺麗に割れます。

シリコンの基板を割り抜く際に、ピンセットや手で触った基板の表面には、目には見えませんがナノサイズの小さなゴミが付着しています。それを取り除くために、超純水で洗浄してもらいます。洗浄に使う超純水は、競泳用プールの水に耳かき1杯以下の不純物しか含まれていません。ちなみに通常の水道水は、ドラム缶数本分くらい含んでいるといわれています。超純水は、何も含んでいないので不純物を溶かし込む能力に優れていて、強い洗浄力を持っています。ちなみに皆さんが着ている防塵衣も、この水で洗濯しています。

次は、シリコンの基板の上に薄膜を積層する工程です。今回用いたシリコンは太陽電池の正極として作用する物質で、この上に負極の働きをする薄い膜を形成することで、光が当たると電気が流れる構造になります。今回、この負極の膜にはSiC(炭化ケイ素)を用います。では、これから基板を薄膜形成装置に入れてもらいますが、薄膜形成室に空気(つまり不純物)を入れないようにするために、まず横にある基板準備室に基板を入れ、真空引きをしてガス置換してから基板を薄膜形成室に移動させます。

これは、薄膜形成室にガスを導入するための操作パネルです。今回の太陽電池の作製には水素とヘリウムを使用します。水素、ヘリウムと書かれたボタンを押し、スタートボタンを押すと自動でガスが送り込まれます。この水素とヘリウムのガスの混合比(レシピ)を変えたりすることで、作る膜の性質を変化させることができます。ちなみに、実験で用いているガスは、10億個の分子に対して1個の不純物分子が含まれるかどうかのレベルまで純度が高められています。

いよいよ薄膜の形成が始まりました。薄膜の形成にはプラズマを用います。装置の窓を覗くと青白く光っているのが見えますね。あれがプラズマです。中には薄膜の原料となる物質がセットされていて、その原料とプラズマ状態となった水素が化学反応を起こし揮発します。これは、炭が燃えて二酸化炭素が生成される反応に似ています。この気化反応により基板の上に薄膜となる元素が降ってきて積み重なっていきます。このプラズマが無ければ、研究体験ではとても使えない猛毒原料や、すごく高い温度(1000℃)が必要になります。

さあ、薄膜が形成できました。銀色だったシリコン基板が、薄い炭化ケイ素の薄膜によって青くなりましたね。けど、この青色は炭化ケイ素自体の色ではありません。この色は膜の中で蛍光灯の光が干渉して見えている色なのです。ちょうど、しゃぼん液が透明なのに、しゃぼん玉に色がついて見える現象と同じです。ではキズ、曇り、色むらなどがないかよく観察してください。観察するときは、人から出るゴミが付着しないように人より高く持つのが基本です。綺麗な膜がでてきた瞬間、よろこびを感じる研究者も多いんですよ。

この炭化ケイ素が積まれた基板を太陽電池にするには、発電した電気を効率良く取り出すための金属電極を取り付けなければなりません。それが次の工程です。作製したSiC膜の上に真空蒸着という方法でアルミニウムの膜を形成します。真空蒸着装置に先ほどの基板をセットします。2本の支柱の間にはタングステンのヒータが渡されていて、中央のかごにアルミを載せます。これからここにベルジャーというガラスのドームをかぶせて中を真空状態にし、ヒータに電気を流して約2000℃に加熱します。さて、どうなると思いますか。

ベルジャーの中が真空になったので、ヒータに電気を流します。ヒータはとても強い光を発するので、実験者はゴーグルをしてください。さあ、白く光ってきました。ヒータで加熱されたアルミニウムが溶けて蒸発し、それが基板の上に降って急冷されることで固体に戻り、アルミニウム膜が形成されます。ベルジャーの内側にも付着しているのがわかりますね。先ほどの炭化ケイ素の膜が約70ナノメートル、このアルミ膜が約200ナノメートルの厚さに調整されています。この厚みは、みなさんの髪の毛の千分の一程度のスケールです。

さあ、いよいよ太陽電池の完成です。青く輝く表面の膜と整然と並んだ電極が美しいですね。ようやくみなさんにも見覚えのある太陽電池になったのではないでしょうか。でもまだ安心はできません。モノづくりの最後の工程である性能評価が残っています。人工太陽灯装置に完成した太陽電池をセットし、電極金属膜に測定用の針をつないでください。そして余計な光が入らないように装置の扉を閉じてください。

人工太陽灯を照射して発電の開始です。ちゃんと発電してくれるでしょうか。電流と電圧が測定され、その結果はこちらのパソコンの画面にグラフになって表示されます。これまでの苦労が報われるかどうかの緊張の瞬間です。研究者でも緊張するんですよ。………でました。いいですね。ちゃんと発電しているようです。出力特性もまずまずです。薄膜を精密に積み重ねてつくる太陽電池の作製、大成功です!