これは人工衛星の模型です。今日は人工衛星がどうやって姿勢を制御しているのか、実験装置を使って体験していただきます。地球表面を観測する衛星はカメラやセンサが地表に向いていなければなりません。ピンポイントで災害の被災地を観測するというミッションもありますね。つまり、人工衛星はその目的を達成するために目標の方向に自分自身を向けなければいけないんです。これを姿勢制御といいます。ただし、宇宙空間には支えになる足場がないので、地上にいる私たちのように簡単に向きを変えることができません。

ひとつの方法は、従来からある「リアクションホイール」というアクチュエータ(姿勢制御装置)を使うことです。その原理を体験してもらいます。ここに自転車の車輪があります。回転するテーブルの上に立って、回転軸を垂直に立てた状態で車輪を手で勢いよく回してみてください。するとどうですか? 体も回転を始めましたね。回転テーブルの上の一部が回転を始めると、これを打ち消すようにテーブルの上全体が回り始めます。これを角運動量保存則と言います。

もうひとつの方法は、「コントロール・モーメント・ジャイロ」(CMG)という、比較的新しい技術を使ったアクチュエータを使うことです。この原理も体験してもらいます。回転テーブルの上に立って、今度は回転する車輪の軸を水平にして持ってください。このとき、回転テーブルの上に垂直軸回りに回転する成分はありません。ですから体も回転しませんね。

さあ、ここからがおもしろいところです。回転する車輪の軸を水平から垂直に90度向きを傾けてみてください。体が回転し始めましたね。回転軸を傾けたことで、回転テーブルの上で垂直軸回りの回転が生まれたことになり、その回転を打消すように角運動量保存則によってテーブルの上全体が回転を始めたのです。回転軸の向きが変わるだけで姿勢が変化するというのは、不思議ですね。

これまでの実験では、原理をわかりやすく理解するのために垂直軸回りの回転運動を扱いました。人工衛星の姿勢制御の仕組みも基本的にはこの原理が使われています。ただし、実際の宇宙空間では人工衛星は3次元運動するので回転軸は3つあります。動きがちょっと複雑になりますから、ここからは実験機を使います。この円盤状の実験機を人工衛星と考えてください。人工衛星ですから3軸回転運動を制御しなければなりません。そのために4台のコントロール・モーメント・ジャイロが搭載されています。

近寄ってよく見てください。小さなホイールの付いた部品が見えますね。これがコントロール・モーメント・ジャイロです。ホイールは毎分1万回転します。これが周縁部に4台搭載されています。ちなみにこの実験機は、研究室に配属された学生が設計・製作したものです。大学内の工場で自分で加工した部品やハンダ付けした電子回路、市販のコンピュータや電池などを組み合わせて作ったものです。つまりオリジナルの装置というわけです。最近では3Dプリンタを使って部品を作ることもあります。

実験機の下側を見てください。球状の支持代の上に載っているのがわかりますか。これは圧縮空気を使った空気浮上の軸受けです。球状の部分と受けの部分の間にはごく薄い空気の層があって非接触になっているので、摩擦はほとんどありません。宇宙空間で摩擦無く自由に回転できる状況を模擬できるようになっています。この球の中心と実験機の重心を3つのバランスウェイトを使って1/20mm以下の精度で合わせると、宇宙空間に浮いているのと同じ状況になります。さあ、ここは宇宙です。実験の準備が整いました。

これから円形のステージが水平の状態から手前に30度傾く制御をします。手前のパソコンから実験機上のコンピュータに指令を無線で送ります。実験機には一切のケーブルがつながっていません。コントロール・モーメント・ジャイロも搭載したバッテリーで駆動します。摩擦が非常に小さく、ちょっとした力で実験が乱されるので、エアコンも止めます。

ホイールが回転し、コントロール・モーメント・ジャイロが動き始めました。実験機は機上のセンサを使って1/100秒周期で自分が向いている方向を計測し、計測結果に基づいて自動的に4つのコントロール・モーメント・ジャイロを的確な角度にコントロールします。つまり、最初に送った指令を達成するように、実験機が自分自身で考えて動いているのです。まるで意思を持っているように見えませんか。動きもスムーズですね。さあ、目的の方向に到達して実験は終了です。

コントロール・モーメント・ジャイロは、リアクションホイールよりも大きなトルクを出力できることから高速で姿勢制御を行うことができるため、人工衛星に搭載する例が近年になって増えてきていて、研究も世界中で活発にされています。私たちの研究室では、ご紹介した実験機の他にも、コントロール・モーメント・ジャイロの種類や数を変えたいろいろなバリエーションの実験機を使って、宇宙空間における人工衛星の姿勢制御の研究を進めています。