機械工学専攻の小林・福重研究室では「サステナブルシステムデザイン学」という新しい学問領域を立ち上げ、持続可能な社会を実現するために様々な研究を行っています。今日は、研究テーマのひとつである「地域指向サステナブルデザイン」を体験していただきます。これは新興国・途上国で使われる人工物(自然物と対をなす概念で、工業製品やサービス、ソフトウエアなど人間が作るもの全てを指す)を設計する際に役立つシステムです。では、これからみなさんには、ここに映っているベトナムの家庭に行ってもらいます。

さあ、ヘッドマウントディスプレイを装着してください。仮想化現実環境へようこそ。今いるのはベトナムのホーチミンにある一般的な家庭のリビングです。現地で撮影した多数の全天球画像から構築したもので、家の中を自由に移動することができます。何のためにこのシステムをつくったかというと、新興国・途上国において資源消費量を抑えながら、生活の質を向上させるような人工物を考える際に、離れた場所にいる設計者自身が、その国の衣食住の生活習慣や地域特性を体験しながら理解するためです。

住宅の中に身を置くだけでなく、具体的にどんな製品が使われているのかも調査しています。ここにあるのはベトナム製、タイ製、日本製の炊飯器です。どんな機能が搭載されているのか、エネルギー消費の状態はどうなのかを動作させて調べます。さらに、どんな部品が使われ、どんな材質でできているのかも分解して調べます。この手法をリバースエンジニアリングと言います。これによって各製品がライフサイクル(資源採掘から廃棄まで)の中でCO2 をどれだけ排出しているかがわかります。

こちらはベトナムで使われていた洗濯機を分解しているところです。環境負荷を考える場合はCO2の排出量を求めることが重要なのですが、資源消費の面から考えると、使われているそれぞれの部品を、分解・破砕してリサイクルしなくてはならないのか、部品単位でリユースできるのかを調べることも重要です。これからはリユースできるように設計することが不可欠です。それには材質も検討しなくてはなりませんが、汚れてもわからない色にするという視点も大事だったりします。

当研究室では、資源消費量を評価する手法として、資源採掘から廃棄に至る人工物ライフサイクルを通じた環境負荷と経済性を動的に評価する「ライフサイクルシミュレーション」を開発しています。部品が作られ、それが製品となり、市場に出て使われながら修理・メンテナンスされ、やがて廃棄されるとリユースやリサイクルにまわる。その経路を人工物の寿命をもとに詳細に追いかけ、それをモデル化して環境負荷や経済性をシミュレーションします。もちろん、製品を動作・分解して得られたデータも入力します。

「サステナブルシステムデザイン学」について説明しましょう。これは持続可能な人工物のデザイン(設計)およびマネジメントの方法論を生み出すための学問です。現代社会はそもそも持続可能ではないという問題意識から出発しています。根本原因は世界人口が増加していることです。資源やエネルギーや水が膨大に必要になり、その影響で気候変動や自然災害が起こっているのです。一方で貧困や格差といった問題も深刻です。環境的な持続可能性と社会的な持続可能性、その両方を解決するシステムを設計して世に送り出すことを目的としています。

ここでみなさんにワークショップを体験してもらいます。新興国・途上国の社会問題解決のための研究の一環で、そもそも新興国・途上国の人たちは暮らしに何を求めているかを理解するための手法です。経済学者が提唱する「基本ニーズの充足手段」マトリクスです。基本ニーズは、生存、保護、愛情、理解、参加、怠惰、創造、アイデンティティ、自由の9つ、その存在形式が状態、所有、行動、環境の4つです。それぞれの枠の中に思いつく限りの充足手段を挙げていってください

衣食住の生活習慣が違えば、幸福の概念や基準も国や地域によって異なります。先進国の価値観を持ち込んでも受け入れられません。新興国・途上国においては、生活の質を向上しながら資源消費の増大を抑えるという命題があります。そのためには真のニーズに即した方法を見出さなくてはならず、私たちも実際に足を運んでフィールドワークや共同研究を実施しています。行ってみなければわからないことはたくさんあります。例えばこの乗り物。ベトナムの車イスなのですが、形も動かし方もまったく異なっていて驚きます。

ここが「サステナブルシステムデザイン学」をテーマとする小林・福重研究室です。現在、院生と学部生を合わせて13名のメンバーがおり、この他に留学生もいます。この分野の研究は、ライフサイクル工学、資源・エネルギーを含む環境学、設計工学を基本とし、テーマに応じてシステム理論、環境経済学、人文社会学の知識を加えて研究します。そうした学際的な研究に興味のある人や環境問題に興味のある人、あるいはプログラミングが好きな人たちが集まっています。

人工物のライフサイクルの捉え方や新興国・途上国のニーズを汲み取る手法などに触れていただきました。例えば炊飯器では、日本製はエコモードがあって省エネなのですが、ライフサイクル全体ではタイ製の方が環境負荷が小さいことがわかりました。保温機能がないからです。ベトナムはご飯を保存しないので保温機能は使わない。最初から機能を省いて設計すれば部品点数を減らして資源消費も抑えることができます。その国や地域の生活習慣を考慮して製品設計することは、実は環境面からも意味があることなのです。