地球総合工学専攻 船舶海洋工学部門「藤久保研究室」では、船舶および海洋構造物の構造強度と安全性に関する幅広い研究を行っています。海洋構造物というのは、洋上風力発電施設や海上空港など海に浮かぶ大型施設のことです。研究室ではそうした新しい洋上施設のシミュレーション解析や実験を行っています。今日は船舶海洋試験水槽で行われる「浮体式洋上風力発電施設」の模型実験を見学していただきます。

風力発電は、再生可能エネルギーの普及に力を入れている日本において期待されている発電方法です。陸上の風力発電施設を見たことがあると思いますが、それよりももっと大きな風力発電施設が洋上に建設されようとしています。大きいほど発電効率が高く、コストの面で有利だからです。日本では深い沖合の海に設置できる「浮体式洋上風力発電施設」が適しており、ノルウェー、イギリス、フランスなどでも研究が進められています。

現在、実機レベルにまで進んでいる浮体式洋上風力発電施設は、陸上で成功している水平軸型風車を浮体構造物の上に載せたものが主流です。しかし、重い発電機が上部にあるので揺れやすくメカに負荷がかかり、人が登ってメンテナンスしなければなりません。そこで垂直軸型風車が見直されています。さらに、今回の研究プロジェクトの中で提案している、「浮体式浮動軸型風車」は、回転軸が風力に応じて傾斜するので、水平軸型でも垂直型でもない新しいカテゴリーになります。これは研究プロジェクトリーダーの阪大の秋元教授の特許でもあるんですよ。

「浮体式浮動軸型風車」は、ブレードは円筒型の浮体に固定されていて、タービンと浮体は一体となって回転します。そして、 中央で回転するタービンシャフトの円筒面に、ローラーを押し付けてトルクを取り出します。発電機はローラーの上または内部に搭載します。この発電機構は水面近くに位置し、しかも回転軸の外にあるのでメンテナンスが容易で経済性に優れています。この「浮体式浮動軸型風車」のコンセプトの正しさを確認するために模型で実験を行います。

実験を行う水槽について説明します。船舶や海洋構造物の模型を用いた水槽試験は、実際の海におけるそれらの挙動を把握するのにとても有効な手段の一つです。大阪大学工学部の船舶試験水槽は1970年に設置され、船舶海洋工学の分野で多くの成果を上げてきました。水槽の大きさは、長さ100m、幅7.8m。水深は4.35mもあり、これくらい深くないと本当の海の特性を表せません。

これが作製した「浮体式浮動軸型風車」の模型です。ブレードは軽くて丈夫なFRP製です。模型が小さすぎると現実の現象を再現できないので一定の大きさが必要です。実際の風車は海底から伸びたチェーンなどの係留装置で流されないように固定するのですが、実験でも同じように水槽の底にチェーンでつないでいます。このような実験は、模型を固定したり、セッティングを行うのがけっこう大変で、大きな実験だと実験開始までに数日かかることもざらです。

水槽の一番奥には波を作る造波装置があります。今回は風車の実験なので、強い風を起こすためにたくさんのファンも用意しています。

ところで今みなさんは水槽の上に設置された台車に乗っているわけですが、これは電車とも呼ばれているんです。なぜかというと、壁側に架線があり、台車側のパンタグラフを通して電気をとって台車が水槽上を走行できるようになっているからです。台車の下に船舶模型を付けて走行すると、船舶の洋上航行が再現できるようになっているんです。今回は風車模型を設置したら台車を後退させ、風車が風と波を受けてどのように回るかを観察します。

さあ、風車が回り出しました。「浮体式浮動軸型風車」は風車軸を釣りのウキのように浮かべて回転します。かなり揺れていますが、風車はしっかり回っていますね。模型の各部にはセンサーが取り付けられており、データを検証しなければなりませんが、この形の風車にも可能性があることがわかったのではないでしょうか。「浮体式浮動軸型風車」は大型化が容易で、部材も大幅に削減でき、発電コストを通常の浮体式風車の半分以下に削減できると考えています。さらに実験やシミュレーションを重ね、研究を進めていきます。

さて、実験を間近で見ていかがでしたか。船舶海洋工学の分野が扱うのは船舶や洋上構造物など巨大なものなので実物で実験することができません。シミュレーション技術が進歩してかなりコンピュータ上で解析することが可能になってきていますが、実世界には様々な要因が複雑に絡まり、計算通りにはいきません。こうした施設を使って模型実験を行うことでそうした現象が明らかになり、実用化を目指した研究が進められるのです。