みなさん、超精密科学研究センターの見学ツアーにようこそ。ここは普段はセキュリティチェックが厳しく関係者以外立入禁止の場所です。中は世界でも最高水準のクリーンルームになっていて、ナノレベルの精密な計測や加工ができる装置がたくさん導入されています。今日はそれらを実際に見てもらいながら、ここでどんなことが行われているかをご説明します。

ここで行われているのは、一言でいえば"ものづくり"生産工学です。生産工学は、日本の将来を担う先端産業や自然の根源を明らかにする基礎科学を根底から支えるとても重要な技術です。いま、我々が目指しているのは原子スケールのものづくり。超精密形状の創成、表面形状の測定、表面の機能化、ナノ構造の創成など「超精密科学」による表面創成技術の開発を行っています。

装置を順番に見ていきましょう。ここにあるのはSEMという走査型電子顕微鏡です。電子ビームを対象に照射し、対象物から放出される電子やX線などを検出することで画像化する仕組みで、対象を詳しく観察できます。回路や半導体部品などの観察に欠かせない装置です。それほど珍しいものではありませんが、これは比較的最新型です。

これはスパッタ装置です。スパッタとはスパッタリングのことで、薄膜として付けたい金属を分解・気化して、その原子を基板の上に降り積もらせて成膜する方法のことです。この装置はプラズマ源を利用していて、あの奧で光っているプラズマの中に金属を置いておくと表面の原子がはじきとばされます。原子レベルでの成膜が思い通りにできます。

この黄色いエリアは新しい電子デバイスを研究しているグループが使っています。LSIなどの半導体製造工程では、ごく微細な配線パターンを写真の露光技術でつくっているのを知っていますか。ここには露光装置が置いてあるので、感光剤が反応しない黄色い光を使っています。新しいデバイスがここで実験的に試作され、評価されているんです。

さっきのSEMは電子を当てて電子やX線を量る装置でしたが、これは逆で、X線を当てて電子を量る観察装置です。飛んでくる電子のエネルギーを正確に量ると何がわかるかというと、原子核の周りをまわっている電子の軌道がわかります。そうすると、たとえばシリコンの上に酸化膜がついているのか、窒化膜がついているのか、そういうこともわかります。

これは何だと思いますか。これはX線ミラーです。X線を使った顕微鏡に使われます。私たちは健康診断の時にレントゲンを撮りますが、細胞1個、原子1個のレントゲンを撮りたいとき、どうしたらいいでしょう。X線を原子サイズのオーダーまで絞って集束しなければなりません。これはそのためのミラーです。実はこれ1つでウン百万円の価値があります。なぜか。ここでしかつくれない貴重なものだからです。

このいかにも手作り感あふれる装置がさきほどのX線ミラーをつくる装置です。こう見えてものすごい精度でつくれます。一般的に精密加工のできる町工場でも精度は1ミクロンですが、この装置は0.1〜1ナノの精度です。1ナノの精度で表面を創成できる装置は世界中を探してもこれだけです。この溶液の中の微粒子がミラー基板材料と化学反応を起こすような組み合わせになっていて、表面の原子1個を取るというような加工が可能になっています。

ここにあるのはX線ミラーの表面をコーティングするための多層膜成膜装置です。先ほど見たスパッタ装置と同じ仕組みの装置ですが、これはプラズマ源が3カ所にあって、3つの金属をコントロールしながら多層膜を形成することができます。ちなみにそこにあるのは金の塊で、そっちにあるのが白金(プラチナ)の塊です。膜をつくるための材料です。

この潜水艦みたいなのはプラズマCVM装置です。スパッタ装置と基本的な仕組みは同じですが、これは中を真空にするので装置が大きくなっています。中性子を集束させるスーパーミラーなどを開発しています。たぶん日本ではここでしかやっていない研究です。さて、これで一通りの見学を終わります。最先端のものづくり研究がどんなところで行われているのか。その雰囲気を感じていただけたでしょうか。