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研究紹介

HOME > 研究 > 研究紹介 > 精密科学・応用物理学専攻|荻 博次 教授
精密科学・応用物理学専攻「音と光のナノレベルの相互作用を用いた測定法の研究」
光よりも波長の短いハイパーサウンドを実現 スマホの高速化や難病の早期診断に貢献する 精密科学・応用物理学専攻 荻 博次 教授
光を凌駕する音が実現すれば常識が覆る

“音”が秘めた可能性に魅せられた研究者がいる。音を使って、これまで見られなかったものを見る、測れなかったものを測る研究に取り組み、画期的な計測手法やデバイスを創りだしてきた荻教授である。なぜ音なのだろう。

「元々、力学的な作用が好きで、物質によって鳴り響き方が異なるのはなぜなんだろうという興味を持っていました。結晶が鳴る音を可視化するとまるで現代アートのようで感動します。そんな素朴なおもしろさから音の研究をするようになりました。すると音には無限の可能性があることがわかってきたのです」

音の価値に気付いている研究者は多くはない。光があるからだ。音も光も波動だが、一般的に音の波長は光に比べて長い。例えば緑色の光の波長は500ナノメートルほどだが、我々が話す声の波長は数十センチから1メートルもある。センサーに用いられる超音波にしても1ミリ〜数十マイクロメートルだ。波長は物差しの目盛りのようなものであるから、目の粗い音は微細な観察や精密な測定に向かないと考えられてきた。それが常識だった。


光で音を操り、光で音を聴くオリジナルの「ハイパーサウンド計測システム」

「しかし、音には圧倒的なメリットがあるのです。まず、音はどんな物質にでも入っていけます。体の中にも入っていけるし、金属の中にも入っていける。光には到底できない芸当です。それに胎児のエコー検査でわかるように、音は比較的安全です」

つまり、光よりも波長の短い音をつくることができれば、常識が覆る。音で光を凌駕できる。荻教授はこの非常識で突飛なアイデアに挑戦し、新たなサイエンスを切り拓いてきた。

光を凌駕する音を鳴らすのは光だった

光を超越した音であるハイパーサウンドを鳴り響かせるにはどうすればいいのだろう。ブレークスルーの鍵は、ライバルである光にあった。

「ハイパーサウンドをつくりだすためには、実は光が必要なのです。というのも、音の波長をどんどん短くしていくと、量子レベルで音と光は絡み合うようになるのです。いわば音と光の共鳴です。この現象をコントロールすれば、光を使って音を鳴らし、さらには光を使って音を聞くことができるのです」

音の正体は原子の振動だ。気体や固体の分子の揺れが伝わって音が届く。対して光の正体は電磁波である。電場と磁場が伝わる現象だから真空中でも光は届く。音と光はまったく異なる現象である。それがどう絡むのか。

「ちょっと乱暴ですが、物質は電子の塊であると考えてください。そこに一瞬だけ強い光を当てると、電磁波により電場がかかり電子が躍動します。するとそのエネルギーが原子振動に移動し、それが波となって音がワーンと鳴り出すのです」

では、逆にハイパーサウンドを聞くにはどうするのか。

「電子の濃い部分と薄い部分は、特定の波長の光だけを反射する回折格子と同じ作用をもたらします。そこに光をあてると音によってその光は跳ね返されます。つまり跳ね返された光を調べるとどんな音が鳴り響いているかがわかるのです」

ハイパーサウンドの波長は驚異的に短く、その振動は100万分の1秒のさらに100万分の1秒に1回という超高速だ。光を凌駕する音が、実は光でしか操れないというのはパラドックス的ではあるが、だからこそ誰も成し得なかった境地であるとも言えるだろう。


超高周波の超音波であるハイパーサウンドを鳴り響かせるには、極小パルスのレーザーをナノベルに照射する。



光で音を操ることで、これまで測れなかったものが測れるようになる。


がんやアルツハイマー病を音で診断

荻教授はハイパーサウンドを奏でるデバイスをナノベルと呼ぶ。その応用展開のひとつとして期待されているのがバイオセンサーだ。

我々人間は病気になると特定のタンパク質を体内に分泌することがわかっている。そのタンパク質をバイオマーカーと呼び、健康診断などの際にはその有無によって病気の疑いのある人をスクリーニングしている。ただし、血液や尿から目的のタンパク質を分離して調べるには専用の分析装置が必要で時間もかかる。

だが、ナノベルを使えばたちどころに結果を知ることができる。仕組みは単純だ。あらかじめナノベルの表面にバイオマーカーと結びつく抗体を塗布しておき、その上に血液や尿を流す。バイオマーカーが吸着すればナノベルの音色が変わる。ナノベルに光をあてて音色を計測するだけだから、簡単なセンサーとソフトウエアで実現できる。ナノベルは構造がシンプルだから低コスト化も可能だ。

さらに、アルツハイマー病などの認知症にかかるリスクを、音によって判定しようという研究にも注目が集まる。

音と光を用いたアルツハイマー病診断装置の概略図と原因タンパク質の画像。

「アルツハイマー病の原因となるタンパク質はほぼ特定されていて、発症の20年ほど前から徐々に毒性物質になっていくことがわかっています。早期に手を打てば発症を抑えることができるかもしれません。でもそのタンパク質は誰もが持っていて、毒性物質になるかどうかを判定することは難しいとされてきました。しかし、原因タンパク質に特定の超音波をあてると突如として毒性物質に変わることを、我々と大阪大学の蛋白質研究所の共同研究により発見し、音によってアルツハイマー病のリスクを診断する手法を確立しようとしています」

音によって病気の原因を「見える化」するこの手法は、タンパク質の変性を起因とする他の病気の診断にも応用が期待されている。

スマートフォンに搭載するナノデバイスを音で評価

音で測れなかったものを測る研究の成果は、スマートフォンにも使われている。

「スマホの中には我々が研究しているナノベルと同じような特性を持つ共振電子デバイスというものがたくさん搭載されています。皆さんは不思議に思ったことはありませんか。どうして電磁波だらけの空間で特定の人の間だけで通話をしたりメッセージを送ったりできるのだろうと。それはこのデバイスが特定の電波に共鳴して鳴り響くからなんです」

共振電子デバイスは通信の高速化を実現するべく微細化され、そのサイズはマイクロメートルを下回っている。問題なのは、このナノ構造体に使われる材料が小さくなり過ぎて、もはやメーカーも自社でその力学的特性が測れないということだ。ここで登場するのがハイパーサウンド。光によってナノ構造体を鳴り響かせ、その音を光でキャッチすることで力学的特性を正確に計測。メーカーとの共同研究を通じて、情報化社会の進展に貢献しているわけだ。

荻教授は、ハイパーサウンド研究はまだまだ発展すると強調する。

「音は元々非常に高いエネルギーを持っていて、それを電子のエネルギーに変えたり、光を曲げたり、光の色を変えたりと、アイデア次第でいろいろな展開が考えられます。発見できないだろうといわれていたものが発見できるようになるかもしれません。身近で親しみのある音という現象にもこんなに可能性があるということに、ぜひ興味を持ってほしいですね」

荻研究室の魅力は、「自分にしかできないものが作れること」。学生といえども研究者としてオリジナリティを発揮できるという。音と光の共鳴というサイエンスはまだ新しく、奥深い世界の端緒についたばかりだ。


音はどんな物質にも入り込めて生体にもほぼ無害であるが、光に比べて波長が長いことから微細な観察には向かないとされてきた。ハイパーサウンドがそんな常識を覆す。

荻 博次 教授
精密科学・応用物理学専攻

〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1 / TEL.06-6877-5111(代)

©School / Graduate School of Engineering Osaka University.