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HOME > 研究 > 研究紹介 > マテリアル生産科学専攻|小笹 良輔 助教
マテリアル生産科学専攻「骨生体材料学の構築と骨配向化制御」
骨の微細構造と形成メカニズムを工学的に解明 骨にとって重要な指標である配向性を制御する マテリアル生産科学専攻 小笹 良輔 助教
工学的なアプローチにより生体組織の本質的なメカニズムを解明

未来を変えるために未来から現代にタイムトラベルしてきたヒューマノイド・ロボットと現代を生きる人間が死闘を繰り広げる人気映画がある。古いタイプのヒューマノイド・ロボットは外見が人間に見えても骨格が金属なのに対し、最新タイプはもはや人間と区別がつかない。まさに「生体材料学」の究極の姿と言えるだろう。

小笹助教の所属する研究室は、骨を対象にそんな生体材料学の先端を走っている。

「生体や骨というと医学の専門分野だと思われる方も多いと思いますが、私たちの体を構成する臓器も原子や分子、細胞からできた構造物です。一種の材料と捉えれば、工学的なアプローチによって生体組織のより本質的なメカニズムを解明し、生命科学や医療の進歩に貢献することができるのです」

骨の研究でも現在の医療のあり方に一石を投じている。


骨周囲の生体内環境を示した蛍光顕微鏡写真をもとに、材料科学的視点から骨構築のメカニズムを説明する小笹助教。

「骨密度という言葉が浸透しているように、現在は骨の量を中心にした医療が広く行われています。しかし、より重要なのは骨の質です。実際、骨の量が回復しても、体を支えるという骨が本来果たすべき力学的な機能はまだ充分に回復していないということが、近年の研究でわかってきました」

骨密度に変わる新しい骨の指標「配向性」

キーワードは「配向性」である。従来の骨密度に代わる新しい指標だ。

骨の本体である骨基質は、主に有機物であるコラーゲンと無機物であるアパタイトの複合体でできている。骨基質をさらに微細に観察すると、コラーゲンとアパタイト結晶が隣り合うように3次元的に配列しており、その配列の方向と度合いを配向性という。

「例えば大腿骨などの長管骨は、骨基質が長軸方向に整って配列しているのですが、頭蓋骨では骨基質が一方向ではなく2次元的に配列しています。脚の骨には重力方向へ一方向の荷重がかかりますが、頭蓋骨には面圧がかかります。まさに応力方向に骨基質が配向化しているのです」

小笹助教は、その配向性がいかに生体内で制御されているのか、分子レベル、細胞レベルから解き明かしている。

「骨芽細胞と破骨細胞という2種類の細胞が働いて骨が成長・再生していることは皆さん聞いたことがあると思います。2種類の細胞は骨基質の表面に存在していて、骨芽細胞は新しい骨基質をつくり、破骨細胞は古い骨基質を壊しています。2種類の細胞の働きにより私たちの骨は常に生まれ変わっているのです。

でも、それだけではありません。もうひとつ、骨基質の中に唯一存在でき、元々は骨芽細胞であった未知の機能を持つ細胞があるのです。それが骨細胞です。骨細胞は骨基質内部にある孔の中に無数に存在し、骨芽細胞とも破骨細胞とも手を結び、骨の中にネットワークを形成しています。骨に荷重が負荷されるとこの骨細胞がもっとも圧力を感受しやすいわけで、従って骨基質の配向性には骨細胞を中心にした細胞間ネットワークが深く関与していると私たちは考えています」


骨の微細構造を測定するためのX線回折システム。構造材料としての骨組織を解析するための様々な装置が揃っている。



生体組織である骨を扱うため、細胞・分子レベルでの観察や実験アプローチも不可欠であり、生物・医学分野の知識も求められる。


骨粗鬆症は原因によって骨の配向性が異なる

骨形成のメカニズムに関わる因子は多様で、それらが複合的に関わっている。全てを解明することは難しいが、そんな中、小笹助教が明らかにしたメカニズムに注目が集まっている。骨粗鬆症と配向性の関係である。骨粗鬆症は高齢化社会における大きな問題であるが、その原因はひとつではない。代表的な原因が、続発性骨粗鬆症(カルシウム欠乏)と女性の閉経後にみられるエストロゲン欠乏である原発性骨粗鬆症(エストロゲンは女性ホルモンの一種。女性より少ないが男性にもある)。2つの原因で骨粗鬆症となった骨の配向性を、ラットの椎骨を対象にした実験で比較検討した。

「もっとも意外だったのは、エストロゲン欠乏によって骨粗鬆症になった骨は、骨量が減ったにもかかわらず、むしろ配向性は整う方向に変化し、応力方向に対する弾性率(応力に対して変形しにくさの指標)が高まったことです。


カルシウム欠乏による骨粗鬆症とエストロゲン欠乏による骨粗鬆症では骨のコラーゲン/アパタイト配向性と材質強度におおきな違いがあることを模式図で解説。

対してカルシウム欠乏の骨は、骨量の減少と同時に配向性も乱れたため、どの方向からの力にも脆くなります。2つの違いを生んだのは骨細胞でした。エストロゲン欠乏の方は、骨細胞の状態が正常に保たれており、よって骨量減少による強度の低下を、配向性を高めることでカバーしようとしたと考えられます。ただし、ここで気をつけなければならないのは、応力方向には耐えられても別方向からの負荷には弱くなっているということです。お年寄りが転倒すると骨折しやすいこととも合致しています。同時に、この研究から、骨は自身に負荷される主応力を認識し、骨量だけでなく、配向性を介して機能的適応する能力を持つことが解明されました。こうした一連の研究成果は、材料科学が生物現象をも解き明かし得る重要なツールであることを示しています」

カルシウム不足の骨は骨細胞がかなり死滅しており、骨に対する負荷を感受できない状態になっているところまではわかってきた。現在、原因の違いによらず、骨粗鬆症に対しては骨量回復を目的とする治療が行われているが、配向性に目を向ければ適切な治療方法は異なってくるはずだ。

骨の微細構造と機能を踏襲した生体材料を作製

これまでに得られた知見をベースにしながら具体的な骨再生の研究も進められている。骨量だけでなく、配向性を制御するための工夫が凝らされている点が新しい。

まだ細胞培養レベルではあるが、コラーゲンの分子配列を一方向制御した足場をつくり、その上で骨芽細胞を培養すると同方向に骨芽細胞が並び、さらにその方向にアパタイト結晶が配列化することを観察している。これは分子レベル、細胞レベルから任意に配向性をコントロールできる可能性を示している。さらに、今後の再生医療への応用も見据え、iPS細胞から作製した骨芽細胞においても同様に制御可能であることを証明している。

また、コラーゲンの分子配列を揃えた足場だけでなく、金属材料表面の規則構造によっても骨芽細胞が配列化することがわかっている。興味深いことに、細胞は規則構造の周期性に依存して骨形成挙動を変化させる。現在はナノ~マイクロメートルオーダーの規則的な溝を付与したインプラントによる骨形成も研究が進められている。


骨の機能まで踏襲した生体材料を研究するため最新の金属3Dプリンターを導入。骨組織様の機能を有する生体材料の開発を目指す。

同時に、インプラントから骨に伝達する応力状態をシミュレーションにより計算し、材料表面の形状制御により骨細胞がもつ主応力への応答機能を利用したインプラントの研究も進めており、一部は既に実用化されている。

「さらに研究室では、金属3Dプリンターを使って骨の微細構造と機能まで踏襲した生体材料の作製にも挑戦しています。今の技術では電子・レーザーを照射する条件を変えることで、任意形状の造形に加えて、原子配列まで制御することが可能です。より本物の骨に近い機能を発揮するインプラント、生体適合化材料の実現をめざしています」

大阪大学大学院医学系研究科(整形外科学)との共同研究も活発で、医工融合による観点から新たな発想やアプローチも生まれている。

骨密度から骨配向性へと視点を変えた研究は、骨粗鬆症をはじめとする骨疾患の発生メカニズムの解明や患者に負担をかけない新たな治療法の開発につながるだろう。

かつてサッカー少年だったという小笹助教。自らの専門である材料科学で、ケガで夢をあきらめる人、生活を制限される人を一人でも減らしたいと未来に向けた骨と骨に適用するための生体材料の研究に情熱を傾けている。

小笹 良輔 助教
マテリアル生産科学専攻

〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1 / TEL.06-6877-5111(代)

©School / Graduate School of Engineering Osaka University.