お知らせ 齋藤彰准教授のモルフォ蝶に関する研究が紹介されました
物理学系専攻(精密工学コース)の齋藤 彰准教授の研究が、その経緯なども含めて2025年6月18日にJournalof Experimental Biologyに掲載されたレビュー論文「The value of basic research: tracing how the wonder of a blue butterfly inspired modern innovation」(著者: Emilie C. Snell-Rood氏)で紹介されました。
今回、齋藤准教授に、レビュー論文で言及された自身のこれまでの道のりや、思いについて伺いました。

[研究者プロフィール]
齋藤 彰(さいとう あきら) 准教授
物理学系専攻 精密工学コース
専門分野:
ナノ構造科学 、ナノ材料科学 、 光工学、光量子科学 など
詳細は研究者総覧をご覧ください。
――まずは、齋藤先生の研究内容について改めて教えてください。
齋藤准教授:私の研究は、モルフォ蝶の翅の構造色を物理的に再現することから始まり、2000年代初頭、翅のナノ構造による発色原理を実証・応用するための技術開発を行いました。ちょうど「バイオミミクリー*」という言葉が世に出始めた頃で、生物学と工学の橋渡し研究に取り組んでいました。
*バイオミミクリー: 日本語では「生物模倣」 。自然界の生きものが持つ性質を模倣して、新たなテクノロジーや“もの”を生み出す考え方。bio(生物)とmimicry(模倣)という2つの英単語を組み合わせた言葉。「工学」の意ではバイオミメティクスと呼ばれる。

(画像提供:齋藤准教授)
――モルフォ蝶の研究を始められたきっかけは何だったのでしょうか?
齋藤准教授:実は、子供の頃は昆虫少年だったんです。その後、中高時代で物理学に惹かれ、大学でも物理工学を専攻しました。大学時代に一般書を通して昆虫への興味が再燃し、1997年の物理学会でモルフォ蝶の発色に関する光学的仮説(木下修一教授の理論)を耳にしたことが、この研究を始める決定的なきっかけとなりました。
調べてみると、1世紀以上も前からそうそうたる物理学者たちが昆虫の光学特性に興味を持っていたことを知り、偉大な先人たちが同じテーマを研究していたことに勇気づけられると同時に、既にすべてが解明されているのではないかという懸念も感じました。しかし、すぐに、特にモルフォ蝶の構造色を現代の技術で再現するという点において、まだまだ研究の余地があることに気づいたのです。
――今回、レビュー論文にもそのような経緯が取り上げられていましたね。
齋藤准教授:はい。今回、Snell-Rood氏からインタビューを受け、私の研究がその経緯や動機も含めて論文に取り上げられました。正直、最初はよくある取材依頼の一つだと思っていました。実際、参考文献に挙げるに際し、少し詳し目に研究内容を紹介する、という例はよくあるので。しかし、届いた原稿を読んで驚きました。
モルフォ蝶の研究史はもちろんのこと、私自身の研究についても、上記のとおり経緯や動機などから深く掘り下げて紹介されており、特に私が尊敬する悲劇のパイオニア、マリア・ジビラ・メーリアン(17~18世紀の女性昆虫学者)についても言及されていて感激しました。
――やはり同じ分野の研究者から言及されたという点で、喜びもひとしおだったのではないでしょうか。
齋藤准教授:そうですね。出版された論文には、私の研究を歴史的な流れの中に位置づけた年表(図:Timeline of some research on Morpho butterflies.(Emilie C. Snell-Rood, 2025)※外部サイトへリンク)まで掲載されていました。自分の研究をこのようにハイライトしていただき、研究者冥利に尽きる思いです。
私自身、プロになってから、出身ラボともほぼ無関係なこのテーマで研究を始めました。「虫と物理と両方できて嬉しい」という思いはありつつ、いろいろ苦労もしました。同分野の研究者から今こうした位置づけで評価いただき、ありがたいと同時に、不思議な気持ちです。
――最後に、今後の展望について一言お聞かせください。
齋藤准教授:この研究がさらに発展し、世の中の役に立つことを願っています。
※本記事は、齋藤准教授へのインタビューと、Snell-Rood氏によるレビュー論文を元に構成しています。
元の論文については、[論文へのリンク]をご覧ください。
■その他関連リンク
モルフォ蝶に学んだ新たな光拡散シートを作製 – ResOU(2023年9月5日プレスリリース)
モルフォ蝶に学んだ新たな採光窓 – ResOU(2021年4月23日プレスリリース)