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研究成果 【プレスリリース】全く磁化の無い新しいハーフメタル創製に成功-超高密度磁気メモリやセンサ等への応用に期待-

高度IT化社会を支える基盤技術には、超低消費電力、高速演算等の性能を持つ電子デバイスが必要不可欠です。これを受けて、デバイスの性能を飛躍的に向上させる物質として電荷とスピンの情報を伝えることのできる「ハーフメタル」と呼ばれる物質群が盛んに研究されています。

これまで開発されたハーフメタルは強磁性体でした。もし、ハーフメタルが反強磁性的であれば、外部への漏れ磁場が発生せず、高密度に集積してもデバイス内での磁気的相互作用による擾乱が起こらなくなります。そのため反強磁性的ハーフメタルとなる物質が長年探索されてきましたが、これまで2例が報告されただけでした。

今回、「遷移金属元素の価電子数を合計で10にする」という独自の開発指針を基に、鉄、クロム、硫黄からなる化合物を合成しました。本物質は低温で完全に磁化を消失するハーフメタルです。優れた特性を示す反強磁性的ハーフメタル物質の合成に成功したことに加えて、物質の開発指針を実証した本成果は、今後の物質探索・開発を高効率化し、電子デバイス革新を加速させるものと期待されます。

本学工学研究科物理学系専攻 赤井久純 招へい教授


本研究の発端となったのは赤井久純招へい教授が本学理学研究科教授であった2006年ごろに発見した、「反強磁性的ハーフメタルが出現するためには系の中に含まれる磁性イオンの有効d電子の数が磁性イオンあたり5個(イオンペアあたり10個)でなければならない」という法則です。この法則に従い、赤井グループではその後多くの反強磁性的ハーフメタルの候補物質を第一原理計算によって見出しましたが、そのような候補物質を合成しようと実験的試みはほとんどなされないままになっていました。

2019年になって東北大学金属材料研究所の千星聡准教授、梅津理恵教授、海洋研究開発機構の川人洋介上席研究員(本学工学研究科招へい教授)、赤井久純招へい教授(当時東京大学物性研究所特任研究員)との研究チームが組まれ、ほどなくして上記化合物の合成が成功しました。ねらった機能を持つ物質が第一原理計算によって予測され、それが実際に合成されたという意味で画期的です。