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研究成果 【プレスリリース】生体骨のような新材料 バイオハイエントロピー合金×レーザ金属3Dプリンティングで実現

 マテリアル生産科学専攻の中野貴由教授らの研究グループは、レーザを熱源とする金属3Dプリンティング(Additive Manufacturing;AM)を用いて、BioHEAの超高強度化と低弾性率化という本来背反する特性を重畳可能であることを見出しました(図1)。

図1 バイオハイエントロピー合金(BioHEA)と超急冷レーザ金属AMの組み合わせにより、高強度・高延性・低弾性・生体親和性を兼ね備えた新材料開発に成功。ナノ力学現象解明の糸口になることが期待される。

 レーザ金属AMによるマクロ相分離(偏析)を抑制し、強制固溶による真のハイエントロピー効果を引き出す(図2)とともに、金属AMプロセスによる結晶方位制御により低弾性特性を発揮(図3)させることに成功しました。

図2 レーザ金属AMプロセスの適用はマクロ相分離を抑制し(左)、強制固溶(各成分が均一に固溶された状態)によるBioHEAにおける強度の大幅上昇に成功(右)。
図3 新設計BioHEAのレーザ金属AMによる結晶集合組織(結晶配向)制御による低弾性率化。赤で示された<001>方向が低弾性特性を発揮。90GPa以下の低弾性率(低ヤング率)を示す。

 

 同時に、加工性と生体親和性の向上(図4)ももたらしました。開発した新材料は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデンで構成される6元系BioHEAです。同組成の鋳造ハイエントロピー合金(HEA)と比較して、加工性を保ちつつ、約1.4倍の強度(1,300MPa超)を記録しました。

図4 新設計BioHEAの高い生体親和性。既存の生体用合金であるSUS316L(ステンレス鋼)より優れ、CP-Ti(純チタン)に匹敵する生体親和性を有する。

 AM法による本新材料は、骨代替用バイオマテリアルとして、人工関節、脊椎スペーサー、骨固定デバイス(ボーンプレート)などに適 用可能であり、あたかも骨として振る舞う骨デバイスとしての新展開が期待されます。
 本研究成果は、Taylor & Francis発刊の速報誌「Materials Research Letters」誌(IF=8.516、CiteScore=13.6)に、11月29日23時(日本時間)に公開されました。
(本論文はこちら https://doi.org/10.1080/21663831.2022.2147406)                                                                                                             
                                                      【中野教授より】
 私は長年、骨組織を中心とした自然界の創製物に倣った機能発現材料の創製に、ナノからマクロに至る階層的構造に着目しつつ取り組んできました。
 生体材料や高温耐熱材料に必要とされる過酷な環境下での力学特性の発現には、骨と類似したナノ・原子レベルでの界面構造が寄与すると仮説をたて本研究プロジェクトをスタートしました。レーザ金属 3D プリンタの超急冷を活用することで、金属材料の溶融・凝固現象を操り、原子レベルでの構造変化がマクロな材料特性を大きく変化させる「ナノ力学」現象を見出した本成果により、自在な機能制御のための「カスタム力学機能制御学」の構築に大きな一歩を踏み出したといえます。応用面からは新ジャンルのバイオマテリアルの創製を可能とし、 “バイオハイエントロピー合金(BioHEA)×レーザ金属AM”により、本来の常識を覆す高強度・高延性・低弾性・生体親和性を兼ね備えた新材料開発に成功しました。

掲載誌:Materials Research Letters
論文タイトル:Novel single crystalline-like non-equiatomic TiZrHfNbTaMo bio-high entropy alloy (BioHEA) developed by laser powder bed fusion
著者:Ozkan Gokcekaya, Takuya Ishimoto, Yuki Nishikawa, Yong Seong Kim, Aira Matsugaki, Ryosuke Ozasa, Markus Weinmann, Christoph Schnitter, Melanie Stenzel, Hyoung Seop Kim, Yoshitsugu Miyabayashi, Takayoshi Nakano*(責任著者)
オンライン掲載日:2022年11月29日

本研究は、JST CREST [ナノ力学] 革新的力学機能材料の創出に向けたナノスケール動的挙動と力学特性機構の解明(研究総括:伊藤耕三)での「カスタム力学機能制御学の構築 ~階層化異方性骨組織に学ぶ~」(研究代表者:中野貴由)(課題番号:JPMJCR2194)の成果です。              

本論文URL(Taylor & Francis発刊「Materials Research Letters」誌)

中野貴由教授 研究者総覧ページ

中野貴由教授 研究室

戦略的創造研究推進(CREST)カスタム力学機能制御学の構築~階層化異方性骨組織に学ぶ~