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研究成果 【プレスリリース】接着能が失われた細胞の接着因子を呼び起こす新たな三次元培養技術として期待

Part of this figure was created with BioRender.com. & いらすとや

クリックケミストリーを用いた細胞接着法の新展開。細胞培地にアジド化糖(アセチルマンノースアジド)を添加すると、細胞内に代謝的に取り込まれ、細胞表面がアジド化されます。アジド化した対象物質はCODYを介して迅速に化学結合を形成し、接着が達成されます。本研究では、化学結合に伴って浮遊性だった細胞が、基板に対して強く接着して接着性の細胞へと変わることを見出しました。

分子と分子との間に簡単かつ迅速に「強靭な共有結合」を創るため、様々な技術開発が進められてきています。その中でもProf. Bertozzi(2022年ノーベル化学賞)が切り拓いたクリックケミストリー(以下の参考文献を参照)は、生体内の生物反応を妨害することなく、迅速に化学結合を創生する(生体直交性と言います)ことで極めて重要な反応と言えます。しかし、細胞とミクロな蛍光分子との化学結合が研究の中心であり、よりマクロな材料や生体細胞への活用は限られてきました。

そこで本研究では、正電荷を有する歪んだ水溶性アルキン(water soluble cyclooctadiyne, WS-CODY)の接着剤を開発し、アジド基を有する標的物質(蛍光分子、材料、細胞)を細胞と接着させることに成功しました。(本反応は、アジドアルキン付加環化反応, strain-promoted azide-alkyne cycloaddition, SPAACと言います)。

生体内の反応を妨害することなく、ミクロからマクロな生体物質と細胞とを結合する新たな接着剤として、組織工学から再生医療の分野で応用が期待できます。以上により、2023年2月10日(木)に「Bioconjugate chemistry (American Chemical Society)」(オンライン)に成果発表されました (Front Cover art selected)。
Ion-Pair-Enhanced Double-Click Driven Cell Adhesion and Altered Expression of Related Genes. Kohei Kitagawa, Nao Okuma, Moeka Yoshinaga, Hitoshi Takemae, Fumiya Sato, Shoma Sato, Seiichiro Nakabayashi, Hiroshi Y Yoshikawa, Masami Suganuma, Nathan Luedtke, Takahisa Matsuzaki, Masayuki Tera

論文はこちらから。

松﨑賢寿助教(大阪大学大学院工学研究科附属フューチャーイノベーションセンター若手卓越教員)はその中でも、寺准教授が開発したWS-CODYを浮遊細胞に用いて、細胞と基板とが接着されるダイナミクスを計測し、成果に貢献しました。特に興味深いのは、数日すると細胞の形状が丸型から伸展形状へと変化し、基板に対してより強く接着することを見出した点です(下図a)。すなわち化学的な結合によって細胞の素性(浮遊性)が接着性へと変貌を遂げるという面白いデータでした。単一細胞同士も本接着剤で結合してより大きな組織体へと組み立てることができるため、今後はより複雑で多細胞種で構成されるような組織構築をクリックケミストリーで進めていきたいと考えています。

(a) クリックケミストリーによって浮遊性だった細胞が接着性の細胞へと変化していく過程の可視化。松﨑助教らの反射干渉法を用いると、細胞と基板とが強く接着している様子が定量評価できる。 (b)細胞同士をWS-CODYで繋ぎ、より大きな細胞凝集体へと誘導した成果。

北川 浩平修士(農工大)がデザインした図がCover artに選ばれました!細胞と材料、細胞と細胞との間を繋ぐ界面をクリックケミストリーで紡ぐイメージです。

【松﨑助教・寺准教授について】
松﨑 賢寿 (MATSUZAKI TAKAHISA) – マイポータル – researchmap
寺 正行 (Masayuki Tera) – マイポータル – researchmap

【特記事項】
本研究は、東京農工大学大学院工学府大学院生の北川浩平、吉永萌華、東京農工大学工学部学生の佐藤史也、埼玉大学大学院大学院生の大熊菜穂、佐藤奨真、東京農工大学農学部附属感染症未来疫学研究センターの竹前等特任講師、埼玉大学の菅沼雅美教授、中林誠一郎教授、McGill UniversityのNathan Luedtke教授、大阪大学大学院工学研究科の吉川洋史教授、大阪大学大学院工学研究科附属フューチャーイノベーションセンター若手卓越教員の松﨑賢寿助教、東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の寺正行准教授らによって実施されました。本研究は稲盛財団、徳山科学技術振興財団、旭硝子財団、JSPS科研費新学術領域研究ケモユビキチン公募研究JP21H00275、日本医療研究開発機構JP20wm0325016、JST FOREST JPMJFR205Nを受けて実施されました。