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研究成果
クライオ光学顕微鏡技術が2025 NIKON JOICO AWARD特別賞を受賞しました

大阪大学大学院工学研究科の大学院生の辻康介さん(博士後期課程)、山中真仁特任准教授(常勤)、藤田克昌教授、同 先導的学際研究機構の熊本康昭准教授が、4月1日、2025 NIKON JOICO AWARD 特別賞を受賞しました。

NIKON JOICO AWARDは、株式会社ニコンソリューションズが主催する芸術性と学術性を兼ね備えた顕微鏡画像に与えられる賞です。
受賞作品のタイトルは、「心筋細胞内カルシウムダイナミクスの瞬間凍結」です。(図(下)の動画の一部分が受賞作品です。)

図(上)本技術のコンセプト。(下)蛍光顕微鏡で観察中のラット初代培養心筋細胞内を伝搬するCa2+ウェーブを、急速凍結で固定した。Ca2+が増えるほど明るく光る蛍光指示薬を細胞に導入している。左上から右下へ広がるウェーブが凍結によって瞬時に止まり、凍結直前のCa2+分布がそのまま残っていることが確認できる。(Adapted from Tsuji, Yamanaka et al., Light Sci. Appl. 14, 275 (2025), licensed under CC BY 4.0.)

審査では、躍動感あるCa²⁺ウェーブの伝搬が瞬間凍結で一瞬にして停止し、液体寒剤投与によってカルシウム濃度勾配が鮮明に固定される様子を捉えた点が、強いインパクトと高い興味深さを持つ作品として評価されました。

研究の概要

本研究では、クライオ光学顕微鏡1観察中の細胞を、任意のタイミングかつミリ秒(1000分の1秒)レベルの時間精度で凍結固定2し、その瞬間の細胞状態を観察できるクライオ光学顕微鏡技術を開発しました。
従来、細胞動態を正確に捉えるために露光時間を短くすると、得られる光信号量が減少し、物質量変化の定量や微細構造の観察が難しくなることが課題でした。
本技術により、カルシウムイオンの伝搬3やオルガネラ(細胞内小器官)の動きなどの細胞動態を観察しながら瞬時に“止め”、十分な信号積算による高い定量性4の観察や、超解像顕微鏡5を用いた3次元観察が可能になります。
時間とともにダイナミックに分布や状態が変化する生命現象や細胞応答を、高定量性かつ高空間分解能で可視化する手段として、生命科学・医学分野への幅広い応用が期待されます。

特記事項

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST(多細胞間での時空間的相互作用の理解を目指した定量的解析基盤の創出)研究課題名「多細胞の包括的分子イメージング技術基盤の構築」研究(JPMJCR1925)、同 共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)「フォトニクス生命工学研究開発拠点」研究(JPMJPF2009)、同 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)「学際融合を推進し社会実装を担う次世代挑戦的研究者育成プロジェクト」(JPMJSP2138)の一環として行われました。
また、本研究の一部は、ドイツ研究振興協会(DFG)(SFB1278(TP C04))、ライプニッツ協会(Leibniz Science Campus「InfectoOptics」、および「HotAim 2.0」)、Janelia Research Campus, Howard Hughes Medical Instituteの支援を受けて行われました。

関連リンク

藤田克昌教授 研究者総覧
NIKON JOICO AWARD ※今回の受賞の他、これまでに多くの本学の教員が受賞されています。


用語解説

  1. 凍結した試料を低温、凍結状態のまま観察できる光学顕微鏡。従来のクライオ光学顕微鏡では、試料は顕微鏡外で凍結固定されるため、凍結固定した試料の温度を低温に保ったまま顕微鏡に移送するための専用の低温輸送システムも必要とされる。 ↩︎
  2. 細胞などの生体試料を急速に冷却し凍結することで、内部構造、分子状態、イオン濃度分布などを自然に近い状態に保ったまま固定する手法。試料中の水をガラス化させることで氷晶の形成を防ぎ、生体構造の損傷を抑えた状態で固定できる。電子顕微鏡観察用の試料作製に広く利用されている。 ↩︎
  3. カルシウムイオンは細胞内で様々な信号を伝達する物質であり、細胞への刺激や、細胞活動に応じて細胞内の濃度が変化し、細胞内を伝わって行く様子が見られる。 ↩︎
  4. 試料中の物質などの量を測定できるという性質。 ↩︎
  5. 従来の光学顕微鏡の限界(回折限界)を超えた空間分解能で試料を観察できる顕微鏡。蛍光顕微鏡で多くの手法が報告されており、代表的な手法に、誘導放出制御(STED)顕微鏡、単一分子局在化(single molecule localization)顕微鏡、構造化照明(SIM)顕微鏡などがある。 ↩︎